第2話 その恋に愛は必要なのか?
次の日。私は教室に居た。
うん?
何やら教室の奥でもめている。
「小国の女王様の分際でいい気になってなくて」
クリスティーヌさんは大人数の女子に囲まれている。お付の人も居らず明らかに困っている様子だ。
それは少数民族差別であった。
どうする?
私が助けたら余計に目立つ。仕方がない、マブダチの数学の久保田先生を呼ぼう。結果、騒ぎは解消されてブロンドの髪の集団は自分の席に着く。
銀髪とブロンド、分かりやすい民族の対立だ。なかでも、リーダー格のサリサさんは性格がキツクていけない。
東アジア系の私などは猿扱いだ。何となくだが私が呼ばれた理由が推測される。世界は広い事を教える為に違いない。
***
世界は思ったほど平和でない。私はそんな事を思いながら、屋上から三日月を眺めていた。このインターナショナルスクールはビルの狭間にあり、三日月は貴重なモノであった。三日月をスマホのカメラ機能で写真を撮ると校舎に繋がるドアが開く。
クリスティーヌさんだ。
「シモベ、また、ここにいたのか」
「あぁ、月が恋しくてな」
すると、クリスティーヌさんは缶コーヒーを二本取り出すと、私に一本差し出す。
「飲め、おごりだ」
私はクリスティーヌさんに感謝して缶コーヒーを飲む事にした。
美味しい……こんなにコーヒーが美味しく感じたのは久しぶりだ。
「シモベは幸せそうでいいな」
「女王様は幸せでないのか?」
「皮肉は止せ、この歳で小国のリーダーだ。民の為に頑張らなくてはならない」
少し庶民の知らない世界があることを実感する。私は親指と人差し指をクロスさせて四角を作る、映画監督などがするカメラの枠だ。その四角をクリスティーヌさんに向ける。
やはり、絵になる。
それは映画のヒロインそのものであった。
その後、長い沈黙の後でクリスティーヌさんが空を眺めながら。
「私、死にたい」
三日月の見える屋上の中でクリスティーヌさんは呟いた。本当に映画のヒロインではあるまいし。
「悪い冗談はよしてくれ」
私の言葉にクリスティーヌさんは三階の屋上にある簡単なフェンスに近づく。三階の屋上……確かに落ちれば痛いだろうが本当に死ねる高さなのであろうか?
突然、死にたいなんて、簡単に言うモノなのか?
私は色んな思いが交錯する。きっと、私に甘えたいと考えるが決め手がない。
「とにかく落ち着け。何故、突然、死にたいなどと言う?」
否、彼女は孤独な女王様だ、死を求める理由はある。
私はクリスティーヌさんが子供の様に見えた瞬間を思い出す。
そうか、そうだよな。
次の瞬間、私はダッシュしてクリスティーヌさんを抱きしめる。ポニーテールのゴムが外れて銀髪が空に舞う。
「捕まえた、もう、死にたいなんて言うな」
「バカ……」
しかし、私とクリスティーヌさんには絶対的な溝が有り決断の日が近いことを感じていた。
残酷な運命に対して、これでいい、これで……。
と、思うのであった。
それから数カ月後。
「喜べ、父さんは部長に昇進が内定した。これでインターナショナルスクールに無理やり行かなくて済むぞ」
外務官僚で万年窓際族の父親から報告であった。私のお陰かは知らないが部長に成れるとの事であった。
四月からはれて普通の高校に転入は簡単に決まった。半年間で女子校のインターナショナルスクールからお別れである。
クリスティーヌさんになんて言おう……。
言い出せないまま、お別れもいいか。私とクリスティーヌさんとは住む世界が違う。彼女は女王様で私は平民だ。
結局、サヨナラも無しに普通の高校に転入した。私は未練が残るのを恐れてメッセージアプリをブロック設定にした。
これは単なる逃げだと薄々感じていた。そして、一年はあっという間に流れた。
名門私立大学に合格して入学式の日をむかえた。
すると、突然、後ろから女子が抱きついてくる。
「シモベ、高卒認定まで受けて入った大学だ、今度は逃げるなよ」
クリスティーヌさんだ。一緒に通いたくて同じ大学を選んだのか!?
「もう一度、言う、今度は逃げるなよ」
あああああ。
このわがままな女王様には私ぐらいしか居ないか。諦めてクリスティーヌさんのシモベになる事を決めた。
私は思いっきり空を眺めると、春の空は青かった。
女子校のインターナショナルスクールに転校?まさかの男子一人だけ 霜花 桔梗 @myosotis2
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