女子校のインターナショナルスクールに転校?まさかの男子一人だけ
霜花 桔梗
第1話 女子校に転校
季節はまだまだ暑い秋の始まりの事であった。私の名前は『伊田 意夢』普通の高校に通う二年生だ。
しかし。
窓際族の外務官僚の父親に北欧の国のインターナショナルスクールに転校する様に言われる。簡単に言えば、生贄だ。世の中官僚だから良いと言う訳ではない。理不尽な仕事を受けることもあるのだ。
「意夢、お前が女子だったら問題はないのだが、残念な事に転校するインターナショナルスクールは女子校なのだ」
はい?私は健全な男子である。父親は冗談を言うタイプではない。
「俺の官僚としての職を守ると思って女子校に転校してくれ」
これが物語の序章として始まったのだ。
翌週。
今日から通う事になるインターナショナルスクールは地下鉄の駅を降りてビルの合間にあった。
しかし、門は硬く締められていた。
私はインタホン越しに話すと固い門が開く。よかった、招かざる客ではなかった。
その後、理事長室に通されてブロンドの女性と話す事になる。
そう、彼女はこの学校の理事長なのだ。
「君か、文化交流の学生の伊田君は?」
「はい、父の紹介で来ました」
「よろしく頼む、女子校なのに無理を言って君に来てもらった」
ふ~友好的な雰囲気で少し心配が減る。
「早速、君の為に用意した制服に着替えてくれたまえ」
このインターナショナルスクールしては珍しく制服制を採用している。女子はブラウスに緑と黒のチェックのスカートだ。私にはブレザーが用意されていた。
教室に案内されると、やはり、女子学生だけである。
「うわーマジだ」
私が呟くと理事長は皆に挨拶をする様に言われる。ここは気分を引き締めてと。
「今日からお世話になります。『伊田 意夢』です」
ざわつく教室内の一角だけは凛としていた。
その中心にいたのが銀髪のポニーテールが印書的な女性であった。
「あ、彼女か、あれはわが国の少数民族の女王様だ、決して失礼のない様に」
話しによると、名前は『ファークト・クリスティーヌ』と言うらしい。高度な自治を要する地域の女王様だ。
「さて、席を決めたいが、皆の意見はあるか?」
理事長が三十人ほどのクラスメイトに尋ねる。ああああ、目立たぬ様に一番後ろがいいなと思うが結果は……。
「クリスティーヌの後ろがいいと思います」
一番前のブロンドの髪の女子が言い出す。その髪の色の違いから明らかにクリスティーヌとは民族が違うようだ。これは長い紛争の歴史を感じる。日本の様にほぼ同じ民族ではないのが世界の現状だ。まるで、唯一の男子である私が政治の道具にされている気分だ。
「決まりだ、意夢君はクリスティーヌさんの後ろの席にしよう」
理事長が頷いて私の席を決めるのであった。
うううう、女王様の後ろの席か……両隣はお付の方の様だし無難な所か。
授業が始まると先生まで女性だらけだ。唯一の男性教諭は日本人の数学の先生である。何やら同情の眼差しで見つめられる。
まるでETの様に心が意気投合する。
ちなみに、男子更衣室は共同で使用する事になった。
そこはBLの世界に様に男だけの花園になったのだ。
女子校の現実世界は男子には厳しくすれ違うだけでガン見されて、そんな悩みを共有できたのだ。
新たな生活の問題なのはトイレである。男子トイレは来客用しかなく。私は学生用女子トイレを使用する事になったのだ。便器の横にある黒い袋からは汚物が溢れ、極めて不快な生活であった。
そして、クリスティーヌさんとトイレですれ違うと。頬を赤らめてクリスティーヌさんは去って行く。
き、気まずい。
その後、お付の二人にトイレですれ違わない様に言われる。まさに無茶苦茶である。
しかし、クリスティーヌさん綺麗だな。銀色の髪に小顔で身長も高い。まるでモデルさんの様に凛としていた。休み時間、私がそんな事を考えながら前の席のクリスティーヌさんに見惚れていると。
「なんですの?そんなに私の事を見て。シモベになりなりたいの?」
「いや、その……少し視力が悪いから、見つめるつもりは無かった」
私は動揺して何とか誤魔化そうとする。
「決めました、私のシモベです」
はぃ……?
私は何故にこんな事になったか混乱をするのであった。
「シモベ!!!ジュース買って来て」
「いや、だから、シモベではない」
シモベ発言を否定すると。
「なら、ジュースを私が買ってきます。それで、私のシモベです」
クリスティーヌさんは立ち上がると一階の自販機に向かう。結果、クリスティーヌさんはレモンジュースを私に渡すのであった。
「シモベ、シモベ、シモベ、よし」
ダメだ、完全に私の事をシモベだと思っている。クリスティーヌさんは女王様のはずなのに子供の様に駄々をこねる。こうして、一方的にシモベにされたのであった。
インターナショナルスクールに通い始めて数日が経った。私は昼休み、弁当を早食いして誰も居ない屋上に向かった。ここなら女子が居ない、安心して趣味の写生が出来る。スケッチブックを取り出すと屋上から見える景色を描き始めた。
「あ!ここに居た、私のシモベが何処に行ったか探したよ」
現れたのはクリスティーヌさんであった。ああああ、確かに綺麗であるが面倒な存在だ。
「おや、絵ですか、私もモデルになりたいぞ」
その言葉と共に銀髪のポニーテールのゴムを外す。舞い上がる銀髪は天使の様であった。私は言葉を失い、可憐なクリスティーヌさんに見惚れる。
「本当にモデルになってくれますか?」
「はい、約束する」
鞄から真っ黒な紙を取り出す。それは、黒地に銀色を入れた方が銀髪を綺麗に描けると感じたからだ。私は必死で描いた。銀髪の可憐さ、白い肌の曲線、夏服のブラウスにチェックのスカート。
午後からの授業をサボり、私は描き続けた。
「えへへへ、授業をサボった共犯だ。もう、特別な関係になったな、シモベ」
子供の様に笑うクリスティーヌさんに心が持っていかれた気分であった。
更に数日が過ぎて女子校なるモノを感じていた。普通に百合カップルはいるし。スカートを上げてバタバタと涼む学生もいる。女子校に一人だけ男子は予想以上に辛いものであった。確かに何処に行っても甘い香りが立ち込めているが。
「昨夜は疲れたからクソして寝たよ」
「私は下痢便で困っているよ」
ああああ、聞こえてくる会話は実に夢を壊す内容であった。
「どうした?シモベ」
クリスティーヌさんが声をかけてくる。このインターナショナルスクールで会話ができるのはクリスティーヌさんぐらいだ。
しかし……。
「シモベよ、レモンジュース買ってこいよ」
「だから、私は貴女のシモベだはない」
「そうか?なら、私が二本買ってくるから、一本はシモベの分だ」
時々思うが『シモベ』の意味を知っているのか疑問に思う。
少し聞いてみるか。
「シモベの意味?それは、日本人女性は愛する人にシモベと呼んで可愛かるのと聞いたが」
「例えば?」
「首輪をつけてハイヒールで踏み踏みするとか」
あああああ、女王様なのでナマナマしい。
「やはり、シモベの方がいいのですか?」
私の問いにクリスティーヌさんは笑顔で即決する。
月灯りが出ていた。私は自宅近く公園で自作のクリスティーヌさんの絵を仕上げていた。やはり、黒地に銀髪は艶やかであった。うん?スマホが鳴っている。クリスティーヌさんからだ。
『あ、私だ、今は大丈夫か?』
『大丈夫だ。今、月灯りを見ていた』
静かな公園に私の声だけが響く。私は作業を止めて半分の月を見る。
『偶然だな、私も月を見ていた。月が綺麗ですね』
いい雰囲気だ、今の時代は遠くからも隣に居るかのごとく感じられる。
これで『シモベ』扱いが無ければな……。
『今度、秋葉原にあるメイド喫茶に行かないか?』
はい?メイド喫茶?
『美味しいパンケーキと紅茶があるらしい』
いや、メイド喫茶ならメイドさんがメインだろ。
『行くのか、行かないのか、はっきりしろ』
あああああ。迷った末に。
『行きます』
『流石、我がシモベだ。月明りの鑑賞に戻るか』
その後の沈黙は確かに愛があった。ホント、シモベさえ無ければ完璧なのになぁ……。
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