第2話3月18日

 昼休みも間近になった頃だ。

「おいっ‼︎伊東‼︎」

チッ!うるせぇなぁ!一瞬眉間にシワがよるが、すぐに無表情に戻す。

「はい!なんでしょうか?」

 足早に部長の席まで向かう。同僚の背中が語っている。あぁ次はお前か…。と。

「何なんだコレは、」

 渡されたのは、昨日のお昼に渡した、今日の午後からの会議の資料だ。

「3箇所も誤字があるっ!伊東っ!お前は俺に恥をかかせたいのかぁ!」

 「すみません」

 なんで謝らなければならないのか全く分からないが、どうしても、この怒鳴り声に体が竦んでしまう。

 言いたいことは山のようにあるのに、言い返せない。自分で自分が情け無い。自分の方が正しいのに、恐怖に竦んで言い返せない。

「すみません」

 自分でも分かるか細い声で、ひたすら謝り、ただこの時間が過ぎ去るのを待つ。情け無い。

「だいたいお前は…」

 キタ、人格攻撃。

 遠くでお昼休みのチャイムが聞こえる。はい、これで今日の昼飯抜き確定。とはいえ、いつも胃が痛くて、三食まともに食べた記憶がない。栄養ゼリーを流し込んで何とか凌いでいる毎日だ。

 そして意識が遠のいて、どのくらいの時間怒鳴られているか分からなくなったころに、

「部長、そろそろ会議の時間が…」

「チッ、分かったか?伊東!」

「はい」

 何も分からないが、弱々しく返事を返しておく。もう疲労困憊。体は全く疲れていないはずなのに、全身にある気怠さと、怒鳴られ続けられてからなのか、頭が全く回らない。

 目の前にある作業であるはずの、普段なら何も考えずに進める事のできる作業も、手につかない。

 ズタボロだ。回復方法も分からない。


 幾らかの時間が経つとメンタルも回復してきて、作業に取り掛かる事ができる。

 が、しかし。

 会議から戻った部長の石沢は不機嫌だ。当然だ。ウチの部署は何の成果も出していない。いや、出せるハズがない。だってやっている事は、作業なのだから。成果や結果など出るはずもない。

 そしてまた、生け贄のように石沢に呼ばれ、怒鳴られ、疲弊して、作業に取り掛かる。

 これが毎日繰り返される。一日中怒鳴り声の響く所に居れば、萎縮する。そして何よりも、自分がいつ次の生け贄になるのか、何時間怒鳴られ続けられるのか、それが分からないかわ萎縮するし、何よりも恐怖なのだ。

 どうすれば怒鳴られないのか、そればかりを考えてもう何年も仕事をしている。入社した時には、オレの力でこの会社をもっと大きくしてやる、なんて希望も持っていた気もするが、今はもう、一日が終わるのを、ただ縮こまってビクビクしながら待っている。そんな毎日だ。

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終わりの時間 @khuminotsuki02

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