終わりの時間

@khuminotsuki02

第1話3月18日

 終わりの時間

 ピッピッピッ‼︎

 今日もスマホのアラームで起こされる。眠い、疲れが取れた感覚はこの数年間無い。

 起きてから30分で仕事の準備を終えて家を出る。

 何時もギリギリまで寝ていたい。

 ギリギリまで寝ていれば、仕事に行きたくないと考えずに家から出られるし、仕事をサボるかどうかも考えずに職場へ向かえる。

 職場に向かう為に家さえ出てしまえば、いつもの道順で、いつもの電車に乗ってしまえば、何も考えずに職場へ着く。

 もう満員電車に乗っても何も感じなくなった。周りを見回しても自分と同じように、死んだ魚の目をしている。そして、それを確かめながら、電車内での定位置に立つ。

 いつも通りだ。

 今日もまたいつも通りだ。そう思った時に、ポケットの中のスマホが震えた。

 会社からか?と思い、オレは顔をしかめた。ただ、この通知に反応しなければしないで、またアイツがうるさいので、イヤイヤながらもスマホを取りだして、内容を確認する。LINEだ。

『樹、誕生日おめでとう』

 母親からだ。そうか、今日はオレの誕生日か。残業や休日出勤で今日が何日か忘れていたが、そうか、今日はオレの誕生日かぁ。今日は3月18日だ。今日で29歳か。

 とはいえ何か特別の事があるわけでも無い、いつも通りに会社に行って、帰って寝るだけだ。何も変わらない。

『ありがとう』

だけ返信して、スマホをポケットに戻した。

 会社に着いて自分の部署の部屋に向かっていると、ドアを開ける前からアイツの怒鳴り声が聞こえてくる。

 チッ、またか。なんでこうも毎日毎日怒鳴っていられるんだ、コイツは。あぁ憂鬱だ。

 そう思いながら開けるドアは今日も重い。

 コソコソと部屋に入っていき、横目でアイツ、部長の石沢に怒鳴られている人を確認する。新人の山内だ。

 山内は太っていて、見た目通り少し鈍臭い所もあるが、覚えが早く、要領が良い。おそらく、今年の新入社員の中で、1・2を争うポテンシャルはある。とオレは思っている。少なくとも、オレが山内と同期として入社していたら、まず間違いなく、山内の方が先にしているだろう。とオレは思っている。

 それだけのポテンシャルがあるのに、毎日のように怒鳴られ続けられている山内の心情も分からないし、それだけの才能を見抜けないのか、見抜いたからか、毎日怒鳴り続ける石沢も全く理解できない。

 ただ、コッチに飛び火してこない事を祈りながら、オレは、この作業がなんの役に立っているのか全く分からない作業を取り掛かる。

 そう、オレがやっている事は、仕事では無い。作業だ。

 なんの生産性も無い、実際には有るかも知れないが、オレには分からない、ただ目の前にある、与えられた事を淡々とこなしていく、ただの作業だ。

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