家にやってきた同級生ギャルに俺の正体がバレないように三分以内に女装する!【KAC20241】

八木愛里

第1話

 俺、嶋本イツキには三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは、俺の家にやってきた同級生のギャル……西浦シオリに同一人物だと悟られないように女装することだ。


 とりあえずリビング部屋に案内して、「妹のメイを呼んでくる」と言って自分の部屋へ走る。

 用意に時間がかかると怪しまれるので、せめて三分以内には女装を完了させなければ。


 黒髪のウィッグを被って、簡単にアイメイクとリップを塗り、モフモフ素材の部屋着に着替える。


 これでよし、と俺は鏡を見て微笑んだ。


 学校では接点もなかったギャルを家に招くことになったきっかけは数日前に遡る。


 学校を休んだ宿題のプリントを届けてくれたギャルにどうしても家では会いたくなくて、女装姿で対応したのが諸悪の根源だ。


 スクールカーストの下位に属する陰キャの僕と、上位に君臨するギャルの唯一の共通点は近所だということだ。


「かわいー! あいつにこんなかわいい妹がいたんだ!」


 かわいいを連発して、頭を撫でてくるギャル。俺の心臓のバクバクはMAX。

 そのとき、何を話したらいいのかわからず、思わず口走ってしまったのである。


「それってトリぐるみのマスコットじゃないですか! 第一回の応募では抽選で250名しか当たらないというレアマスコットの!」


 あああああ! しまった! しゃべりすぎた!


 ギャルはキョトンとして、彼女のカバンに付けられたマスコットを指差して「これ?」と聞いてきた。

 そこでギャルは学校では見せたこともない笑顔を俺に向けたのである。むふふーと頬を緩ませて美女が台無しだ。でも、普段の澄まし顔よりはその顔の方が良い。とっつきやすいという意味で。


「トリぐるみのファンに会えるなんて嬉しい! 今度二人でおしゃべりしない?」


 そんなこんなで俺の家にギャルを招待することになったのだ。


「メイちゃん、会いたかったー!」


 女装姿でリビングに入ると、ギャルは立ち上がって駆け寄ってきた。

 頭を優しく撫でられて、俺の心臓は悲鳴を上げる。


「シオリさん、やめてよ……」

「いいじゃん! メイちゃんの髪は柔らかくてかわいいし」


 学校でのギャルは学校一のイケメンでも告白を断ったという伝説がある。美人でスタイル抜群の彼女に言い寄ろうものなら、塩対応で打ちのめされる。そんなギャルが今俺の頭を撫でてほわほわした顔をしているのだ。

 ああ……生きていてよかった……。女装してよかった……と俺は思ったのだった。


 俺の部屋に移動すると、ギャルはキョロキョロと部屋を見回す。そして、口を開いた。


「ここがメイちゃんの部屋かぁ。何もない部屋なんだね」


 俺はギクッと体を震わせる。


「ちょっと物足りないって感じ? でも、あたしの部屋よりはマシかな」


 その後のトリぐるみトークは盛り上がった。俺は女装しているからか、はっきり話せるし、ギャルも和んだ雰囲気がある。


「メイちゃん。あたし、君がイツキくんだって知ってるよ」

「え!」

「ギャルのメイク技術を舐めないでよね。最初見たときから女装したイツキ君だってわかってた。でも、学校にトリぐるみを持ってきてるイツキ君と話すには、知らないふりをするしかないと思ってたんだ」


 スクールカーストの上位のギャルが俺と話したいと思ってた!?

 俺の驚きを知ってか知らずか、彼女は話を続ける。


「次はぜひ、トリぐるみのイベントへ一緒に出かけようよ。一緒に行ける友達がなかなか見つからなくてさー。女装しても素のイツキ君でもどちらでもいいよ」


 一緒にイベントに出かけるって……。そ、それって立派なデートじゃないですか?


 俺の心をもて遊ぶように、ギャルこと西浦シオリは「ね?」とウインクしてきた。

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