問 お読みになった貴方様へ

 そうしてこの度、筆を執りました次第に、ございます。

 ああ、マナミとは、誰だったのでしょう。

 私が追いかけ続けた彼女、強く、美しく、己の二本の足で立ち、対の眼で世界を見、頭蓋におさめた脳味噌でものを考える、そうした女の姿は消え、今はただ、髪を短く揃えた、どうしようもなく小柄で、貧相、恋人はおろか友人と呼んでも差し支えのなさそうな、互いに友人と思っているだろうと信じきれる仲の相手もいない、毎日をただ無感動の労働と沈黙の生活に費やし、孤独の味をした時間を貪るばかりの、惨めな私だけがのこりました。ほんの数日前、母親の顔をしたマナミと会うまでに追いかけ続けていたあの背中、私の目標、私の光、私が目指し続けていたあれは、マナミでないのならば、いったい、誰だったのでしょうか。

 いえ、マナミであるはずなのです。契りを交わしたあの日から、逸らすことも逃すこともなく、見続けてきたのですから、あれはきっと、いいえ、必ず、そう、絶対に、神に誓ったって構わないほどに、疑いようもなく、マナミなのです。見失うはずが、ない、ならばあの日、再会したマナミは、偽物、まさか、そんなはずもない、あれも、マナミ、私が追い続けたのも、マナミ。もう、なにも、わかりません。わかりませんので、筆をとりました、次第です。稚拙、粗悪、不出来な文章でしたが、愚図の女の労作、ここまで、ご拝読頂き、ありがとうございました。そして、ぜひ、ぜひ、伺いたいことがあるのです。これ一つ、たった一つ、お答えいただければ、私の人生、もう、なんでも良いと、思えてきたのです、どうか、ご教授、願いたい。愚図の女の、最後の頼みです、教えてください。


 私の追い続けたマナミとは、いったい、誰だったのでしょう?

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虚像に眩む 酔生堂 @Suisei_333

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