500文字未満という文字数で、こんなに様々な色を出せるのかと驚かされます。
登場人物も世界観も、作品が纏う感情も。同じ作者様が書いたとは思えないくらいに色とりどり。
この掌編集を読むと、作者様は感情を掬い取る力が凄いと思わされます。
真っ直ぐに見つめる視線の熱だったり、
ストレートさ故に捻じ曲がった思いだったり。
感情が無いからこその恐ろしさだったり。
やはり、文芸作品の強さは感情の描写の凄さに裏打ちされるよね、と思いました。
このレビューを書いている時点で8作品がありますが、私がいちばん好きなのは「埋まらない隙間」です。
当然のように毎日そこにあったものだから、その隙間は埋まらないのではなくて、空虚という形で既に埋まっているのだ…
ドーナツの穴を見つめる感覚。
500文字という限られた世界の中に映る感情の強さ、人間の存在感。
それらを覗いてみてはいかがでしょうか。
(以下、2024.7.7追記)
「最低な君を彩る」が好きだったので書いておきます。
相手の爪にマニキュアを塗る。
これって本来的に「塗る相手に生命力を与えたい」行為ではないかとレビューを書きながら思いました。
この作品に通底している感情は多分それ。この上なく、相手に生きていてほしい。
だからこそ溢れてくる感情を丁寧に描写した作品です。
春の次に来る季節は夏ではなくて梅雨。じめじめと暗い、マニキュアを上手く塗れなくなる季節。
相手の爪も、自分の感情も、上手く彩り飾れない。じわりと溢れる感情を感じて頂ければと思います。