必要十分愛充分

「ぼくさ、私物は五百個未満に保ってるんだよね」

「五百?」

「覚えていられるのが、四百九十九個までだから」

「ふうん。多いようにも聞こえるけど」

「服や下着を一日五着使ったら、一週間で三十五着。季節ごとに衣替えをして、年間で百四十。油断していたら、五百なんてすぐ越えるよ」

「あふれそうになったら、やはり整理を?」

「絶縁した人からのプレゼントとかは、別れたその日に捨てるけど。なるべくは増やさないようにしてる」

「思い切りがいいな」

「お気に入りの物って、幸せな記憶が紐づいているから。歪む前に、綺麗なままで捨ててあげなきゃ」

「四百九十九個、全てに対してそんな風じゃないだろうな」

「馬鹿にするなら、始めはグーからだよ」

「振りかぶった拳から始まるのは、じゃんけんじゃなくて喧嘩だろ」

「プライベートくらい、愛にだけ囲まれていたいよ。好きを忘れたら寂しいから、覚えられる数で管理しているだけ」

「重い奴め。……ちなみに、この話はさっきの求婚と関係があったりは」

「断られたら、ぼくは全てを失うね」

「好意で脅迫するな!」

「きみは、ぼくを失うことに耐えられるの」

「だから、脅すなって」

「ふふ。どうやら、何も捨てずに済みそうだ」

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500字未満の掌編集 翠雪 @suisetu

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