クリーニング代はサービスです

 二重顎の汗を拭いながら、商売人は笑った。


「自慢のモデルハウスです。本当は売りに出すのも惜しいですが、お得意様のためなら」


 駅から徒歩十分、二階建ての一軒家。見本としての展示期間が終わり、新古品として売りに出されたばかりの好物件だ。


「ささっ。鍵はこちらに」


 恭しく差し出されたシリンダー錠を、玄関の扉に差しこんで回す。


「展示されている家財も、そのままお付けいたします」

「その分上乗せを?」

「滅相もございません!」

「いいさ。前のはダメにしてしまってね」


 古狸を横目に、リビングを物色する。ダイニングキッチンの一輪挿しに飾られているのは、白いダリアだ。ガラス製の天板の上には、花の色と同じ食器が置かれていた。


 それらを囲むように椅子へ座っているのは、「モデル」用に調達された、生身の人間たちである。


 三十代前半の男女と、十歳ほどの少年がそれぞれ一人ずつ。大人たちの薬指では、軽い銀色がきらりと光っている。子どもの膝の上で作られた拳は、小刻みに震えていた。


「男は処分しろ」

「上の階をご覧になってお待ちください」


 勧められるまま階段を上がり、ダブルベッドを検める。階下から漏れる懇願は、二発の銃声の後に絶叫へ変わった。

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