金色の蛇足

 学校机の天板に、画用紙が横たわっている。


「今日は、お空の絵を描いてみましょう」


 見慣れた担任は、よく通る声でそう言った。相談しながらでもいい、と付け足してから、机の隙間を漂いだす。僕は、「そら色」と書かれたチューブをつまみ上げた。


——こんなの、誰が描いても一緒だ。


 真面目な風を装いながら、おとなしい隣人の手元を盗み見る。彼女は、終わりかけの「レモン色」を、パレットへ絞り出していた。


——太陽に使うのか。


 明るい黄色が水で伸ばされ、筆に攫われていく。クラスメートの眼差しは、真剣そのものである。


 そして、天上に置かれるかと思われた筆先は、真一文字に紙を横切った。


「えっ?」

「えっ」


 慌てて顔を逸らしても、つむじに視線が刺さってくる。引っ込み思案な隣人は、瞳ばかりが雄弁だ。


「な、なんでもない」

「そ……そっか」


 いや引き下がるのかよ。超不自然だろ。言いかけたツッコミを、ぐっと飲みこむ。隣人の画用紙には、青から薄青、黄、橙と、僕の知らないグラデーションが広がっていく。


 「朝焼け」と題された彼女の作品は、県で一番になった。水平線から昇らんとする本物を差し置いて、金の折り紙で作られた太陽が、額縁の右上に飾られた。

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