私で良かったね

「どうぞ。爪剥がしてたから、ちょっと臭うけど」

「……まさか、拷問を」

「除光液と血液は嗅ぎ分けて?」


 突然ですが、金髪碧眼のイケメン、拾いました。十七世紀フランスからトリップしてきた模様です。


「漫画の導入かよ」


 ぼやきつつ、先月が賞味期限だったドリップバッグの封を切る。


——遊ばれてんだろうな、観光客に。


 リビングに通した彼は、アパートの前でのびていた。日本語も流暢で、会話には何の支障もない。


——バスティーユ牢獄がどうのとか言ってけど、鎖国している極東の言葉を、革命中に学べるはずはなし。


 バスティーユ牢獄は、一八〇九年までパリに存在し、フランス革命で矢面に立たされた刑務所だ。市民の教育はおろか、今日食べるものにすら必死だった時代の出身だなどと告げられても、設定の詰めが甘すぎるとしか思えない。


 間抜けとはいえ、詐欺師は警察に突き出すべきなのだが。


「はい。カフェ」

「あ、ありがとう」


 けれども、私は極度の面食いで、それなり悪食なのであった。


 詐欺でもトリップでも、顔が良ければそれでいい。


「それ飲んだら、服買いに行こ」


 向かい側に腰を下ろし、コーヒーに口をつける。彼がたじろいだのは、多分、きっと気のせいだろう。

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