第2章 広がり、継がれてゆく想い
『親愛なるオリーブ
君に手紙を書くのは、これが初めてだな。
あの日、君と永遠に別れてから、もう50年も時は過ぎたのだよ。私は87歳になった。今は5人の孫がいる、お祖父ちゃんだよ。
オリーブ、出来ることなら、君に今の世界を見て欲しい。
あの施設が崩壊した後、私は、君が託してくれた「平和」を守ってきたつもりだ。「青い空」を守ってきたつもりだ。
対話……話し合うことは、時に苦痛を、時に深い喜びを私に与えてくれたよ。どんなに無様でも惨めでも、オリーブ、君との約束を守るために、私は話し続けた。そうやって、今の世界を得ることが出来た。
オリーブ、君が言っていたことは真実だったと今ならわかる。「平和」と「青い空」を守るために爆弾は必要なかったんだな。私は、対話という茨の道を避けて、楽な道を選んでいたんだ。なんて愚かな逃げ道だろう、そして、なんて恐ろしい考えだろう。
あの日、あの瞬間、私が発射ボタンを押す前に、君は自らを破壊した。
何故あの時、君は私を殺さなかったのだろうと、ずっと考えてきた。だって、君自身を破壊しなくても、私を殺せば済んだ事だろう?
その後に、君自身を壊すこと無く、あの施設の機能を停止させさえすれば良かったはずだ。何年かかるか分からないが、我々人間が、君が停止させた施設の機能を目覚めさせるまでは、爆弾の脅威からは開放されたはずだ。
ここからは私の想像を話すことを許して欲しい。
オリーブ、君は、私を殺さずに生かす事を選んだ。それは、君が我々人間と同じように、憎み合い、殺し合うことを求めなかったからだ。君の心は、私を殺せなかったんだ。
君は私を殺せず、かと言って爆弾は絶対に発射させられず、苦しんだのだろう。また、自分が生き続けることにより、爆弾という脅威からの、期限が付いた開放しか得られないことを君は許せなかったのだろう。そんなのは、君が守ろうとした「平和」ではなかったんだ。平和に期限なんてあってはならない。
だから君は自らを破壊した。君の存在と全てを破壊した。
この素晴らしい光に満ちた今の世界は、君が命をかけて守ってくれた世界だ。そう、君の命だよ、オリーブ。君は『人間』よりも『人間』だ。君の想いは、確実に我々人間に広がり、継がれているよ。これからも継がれていくよ。
また同じことを言ってしまうよ。オリーブ。今の世界を、青空を君に見せることが出来たらと思うよ。残念ながら、それは叶わない願いだけど。
私も、もう歳だ。もうじき、君がいるかも知れない世界へ、行くことになる。そうしたら、この世界のことを沢山沢山話すよ。その時まで、もう少しだけ待っていてくれるかい?オリーブ。
今日も、青い空がどこまでも広がっているよ……オリーブ。
ミナディア合衆国
元第3代大統領
オーレン・トッド』
この青い空を 月のひかり @imokenpi3
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