あなた
あなたに出会ったのも、誰かに向けた火が灰になった矢先のことでした。
友達に連れられて行った先で、私は一等輝くあなたを見つけてしまったのでした。
あの時の衝撃は生半可なものではなかった、よーく覚えています。
あなたに出会ったことが、湯葉より薄い私の人生史上最も美しく、最も大きく、最も愚かしい出来事になることは、それこそ火を見るよりも明らかでした。
あなたは私が出会ったなかで一番綺麗なひとでした。
私の火は、燃やしていたもの全て、そこに何もなかったかのように放ったらかして、一直線にあなたに向かいました。
綺麗で、面白くて、楽しくて、熱くて、そして冷たいひと。
冷たいは余計でしょうか、いえ、当然のことだから悪い意味は無いのです。
あっという間に、私は、あなたさえいればどうでもよくなってしまいました。
実際はそんなことないのかもしれません。
現に私は呼吸をしていて、友達だって家族だって居て、あなたと話をせずとも、生きている。
あなたに火を向ける人は多く、そして私の火はあなたに見えるのかすら分からないほど小さい。
あなたは私の火が消えたところで何も変わらなくて、そして私のことをきっとすぐに忘れてしまうでしょう。
あなたに向ける私の
きっと、すぐに。
そう思っていたのに、どうして消えてくれないの。
こんなに、見るからに愚かな感情をいつまでもいつまでも抱えているのはなぜ。
私、あなたに存在を示したい私のために、人生で一番、頑張ってみたりしました。
あなたのためなんかじゃありません。
そんな押し付けがましい物言い、できるはずもないのです。
だってこんなに小さいんです、私の火は。
下手をすればあなただけじゃなく他にだって火を向ける人にすら、劣ってしまう小さな火。
他の人と比べるものじゃないって、分かっているのにね。
私があなたに向ける火は、きっとあなたには線香花火よりも小さく見えているでしょう。
だってあんなに大きな花火を打つ人がいるんだから。
嫉妬なんてありえないくらい、私は惨めで愚かしい、羽虫のようなもの。
あなたに燃やす火を、早く、早く消してしまいたいのです。
本当は「恋」かもしれないとも思います。
あなたの記憶の、隅の隅にでも残りたいという気持ちなんか、特にそうかもしれないと。
あなたの腕に抱き締められた時、「ここで命が途切れてしまえばいいのに」と思いました。
あなたが私のためにしてくれたこと全て、いらないことまで全て、昨日のことのようにはっきりと覚えています。
私は正直、あなたに請われてしまえばきっと命だって捧げられてしまうけれど、それは私が「わたし」を好きではないからかもしれないので、関係ないということにしましょう。
私は、あなたに狂っているのでしょう。
燃え盛る火はなぜか消えることなく、私を蝕みながら進んでいきます。
私は正直、人が好きではありません。
人も、自分も、好きではありません。
でも、あなただけは好きなのだと思います。
寝苦しいとき、あなたがただ健やかな眠りについていることを祈ります。
寒いときはあなたが暖かく過ごしていることを、
傷つけられたときはあなたがこんな思いをせずに笑顔でいられたらいいなと、そう思います。
本当は、あなたの中に少しでも、ほんの少しでも私への火があればと、願ってしまう愚かさが消えてはくれないけれど、そう思います。
これは、私の独白。
あなたへの思いを消火、そして昇華したい私の独白。
あなたに届くことなく、あわよくば私の火が消えたとき、愚かさに笑ってしまう話になればいい。
あなたのことを愛する人はたくさんいて、私の想像を絶する愛であなたに認められていて、だからきっと私の愛なんてちっぽけで。
それでも、私の人生で一番愛する人、愛した人はきっとあなただと、私は胸を張って言えてしまう。
あなた以上に私の記憶に深く刻まれる人なんて、きっと、いいえ、絶対に居ないと。
私、あなたのことを愛しています。
きっとあなたの記憶に残ることはないけれど、それでも私、あなたを愛していて、こんなにも息が苦しい。
私の中であなたを燃やす火が溢れて、一酸化炭素中毒にでもなってしまえたらいいのにと、本気でそう思います。
なんて、
ね、気持ちが悪いでしょう。
しょうか 佐々木実桜 @mioh_0123
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