情報の暴力、それはバッファローの群れのようだった

魚野れん

宇宙船からのコンタクト

 セーレンは、情報の津波に飲み込まれていた。強制インストールである。ありとあらゆる情報がセーレンに襲いかかってくる。通常のインストールは必要な情報だけを最低限取り込むものであり、負担はこの比ではない。

 セーレンは制限された情報を得る行為がいかに優しいかを実感させられている。

 つい先日インストールを体験していたセーレンは、この前の時と比較してしまい、その差に目眩を覚えていた。


 これは暴力だ。

 体験をしたことはないが、これは全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れだ。正確には、アメリカバイソンと呼ばれる古代種だが。今は復元用のDNAサンプルが惑星や施設船に保存されているだけで、絶滅同等の状態である。

 セーレンの頭に咄嗟に浮かんだのは、そんな動物であった。


 超古代の文化、文明という名を得てからの人間の歩み、科学力の進歩、そして宇宙進出。かつて宇宙船とは、ただの道具でしかなかったらしい。現在のという存在の始祖について。彼らの始祖とは、何だったのか。

 どのようにして始祖から進化し、宇宙船の形をとるようになったのか。始祖と関わることで、人間の文化がどのように変容していったのか。

 宇宙船が宇宙船になる前から、彼らは人間と寄り添って生きていた。彼らの歴史を、失われた記録をセーレンは渡されている。


 宇宙船との対話はできない。セーレンはそう教えこまれてきた。だが、彼らは対話を望んでいるのかもしれない。セーレンは小さな望みを抱く。

 宇宙船はその間も、人間と宇宙船が別々の道を歩み始めて過去の遺物になり、再び相見えることとなった現在までの歴史を、セーレンに無理やり教えこもうとしている。


 大きすぎる情報その一つひとつが巨大で重く、しかも圧倒的なスピードで襲いかかってくる。恐れを知らず、その獰猛さを隠そうともせず、様々な動物から畏怖されている。かの動物そのものだった。

 物理的な衝突されているわけではないのに、全身が痛い。引きちぎられようとしているかのようだ。

 情報にもみくちゃにされているセーレンは、宇宙船との対話について考えている余裕はもはやなく、与えられるそれらにひたすら耐え続けるしかなかった。

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