第3話 萌え絵、エロ表現と言われるものについて

 前回、エロ表現に批判的な人について書いたので、もう少し書いていこうと思います。


 萌え絵と呼ばれるものに対して批判的な人が、萌え絵を公共の場から排除する動きがあります。


『温泉むすめ』『宇崎ちゃん献血ポスター』『戸定梨香』『月曜日のたわわの日経広告』『雀魂×咲コラボ』『三重交通のイメージキャラクター』と私が記憶しているだけで問題視されたものはこれだけあります。萌え絵ではありませんが、水着撮影会が中止になったこともありました。


 これらについては、道徳的、倫理的に公共の場に相応しくないとして、運営側に抗議する動きがありました。


 これらについては、憲法上、『表現の自由』の問題になります。そして、萌え絵についての表現の自由は憲法学上、重要な話が出てきます。


 それは、①【表現の自由として憲法上、保護されるべき表現は何か】ということと、②【規制すべき表現の規制される根拠と規制の範囲】です。


 まず、①については、表現の自由を保障する根拠が

 ⅰ自己実現

 ⅱ自己統治(国民が自分が属する国・地域を自ら統治するには、政治的な言論が認められなければならない)

 ⅲ思想の自由市場(言論空間での自由な意見交換により、真理に近づくことができる)

 ということが言われてきました。


 これに対して、

 ⅳ萎縮効果論(広汎な規制・不明確な規制により個人が表現活動を自粛してしまう)

 が主張されるようになりました。


 憲法学上、ⅰ〜ⅳの『合わせ技一本』で表現の自由の保障の根拠とするのが主流のようです。


 個人的には、ⅳの萎縮効果論を重視しています。

 理由は、憲法19条が思想・良心の自由を保障していることから、思想・良心=個人のものの見方や考え方に序列を作ることは妥当ではないと考えるからです。


 この点、憲法学上、主流の考え方は『個人のものの見方や考え方』のうち、『人格形成に役立つ内心の活動』に限定して保障を考えます。このため、憲法19条によって保障されるのは、世界観、人生観、思想体系、政治的意見に限定されます。


 しかし、多様性が重視される現在では、個人のものの見方や考え方について序列を作る考え方を憲法上の権利を考える際に採るのは妥当ではないでしょう。


 このため、個人のものの見方や考え方について序列を作る考え方を否定する以上、表現の自由を考える際にⅰ〜ⅲよりもⅳの萎縮効果論を重視すべきと考えでいます。


 以上を前提に萌え絵やエロ表現を考えると、刑法175条のわいせつ物頒布等の罪が成立しないものまでも規制すべきとすることは不当だと考えています。


 憲法上、萌え絵、エロ表現を規制するには、萌え絵、エロ表現もまた表現の自由の保障範囲であることから、規制が正当であると言えるだけの根拠が必要です。


 この規制の正当化といわれるものについては、❶規制により失われる利益と❷規制をしないことにより失われる利益を比較するのが現代的な考え方のようです。


 ❶については、何が萌え絵であり、何がエロ表現であるかについては個人の感じ方に左右され、規制が広汎になり過ぎるおそれと規制の対象となるか否かの境界線が不明確になるおそれがあります。これにより、表現活動が自粛されるおそれがあることが失われる利益になります。


 ❷について、萌え絵、エロ表現を規制をしないことにより失われる利益は、『お気持ち』と揶揄されることがあるように、一般的に『エビデンス』と呼ばれる学術上の根拠が提示されていません。


 よって、萌え絵、エロ表現を規制すべきとは考えるべきではないでしょう。


 これに対しては、

『身体のプライベートな部分を露出しているようなエロ表現は規制すべきだ』

 と思われるかも知れませんが、そのようなものは、刑法175条の規制対象です。


 個人的には、刑法175条で規制されない萌え絵やエロ表現については、法により規制すべきと考えるのではなく、道徳や倫理の世界で語るべき事柄だと考えています。


 では、萌え絵やエロ表現を道徳的倫理的に悪と考え、公的空間から排除すべく、その表現をした者・運営に対して抗議するキャンセルカルチャーについてどう考えているかについては、話しが長くなるので、別の機会に書きたいと思います。



参考文献

新井誠・曽我部真裕・佐々木くみ・横大道聡

『憲法Ⅱ人権 第2版』日本評論社

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書き散らし 万吉8 @mankichi8

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