サスペンデッド『デッド』ゲーム
吾妻 遼平
第1話 準決勝戦天王山
ーー
45回の表、ピッチャーの和馬はもう限界だった。バッターボックスに立つ人影も目に入る汗が邪魔してろくに見えない。
この大会を開いた上の連中に問い詰めたい。なぜ決着がつくまで延長の制度にしたのか……!
もういいじゃないか?もう充分頑張った。腕がちぎれる程奮ったし、そもそも和馬はサッカー部所属だ。助っ人で来ているので、この大会に未練などない。
……っていうか、野球素人に抑え込まれる相手も大概だな!
うん負けよう。連続ボールでフォアボール出して満塁で押し出し。完璧なプランだ。
◇ ◇ ◇ ◇
ーー桐生泰斗はもう限界だった。
ただ思うのはもうやめたいの一辺倒である
滂沱と流れる汗すら拭かず泰斗は、眼前のピッチャーと対峙していた。
スコアボードに羅列される
今回のサスペンデッドゲームはまさに地獄だ。いつ終わるかわからないこの責苦にもう耐えられない泰斗はある決心をしていた。
もう負けよう。このまま延々と続きそうな試合を終わらせるには自ら負けるしかない。ていうか自軍が点を取れるビジョンが見えてこないのだ。致し方ないのだ。
そもそも泰斗は茶道部兼落語研究部。バリバリの文化部員なのだ。
こんな試合に出る所以もクソもない。
うん負けよう。どんなクソボールでも振ってこの回を早急に終わらせる。あとは自軍の救援陣が打たれてくれ。
気のせいかもしれないがネクストバッターズサークルにいる部員(コンピュータ研究部)と目が合いそして目配せをされた。
奇しくも敵同士の二人の思惑が一致した瞬間だった。
◇ ◇ ◇ ◇
『……さぁここから45回の表、パルプンテーズの攻撃です。解説の達川さん。この状況いかがです?』
『もう早く終わって欲しいってのが心境ですね。ピッチャーも今にも倒れそうじゃないですか』
『そうですね。……さあピッチャー第235球目を投げたっ!あっ』
『振ってきましたね。あんなクソボール』
『すっぽ抜けた球を振ってしまいました。ピッチャーも驚いた表情をしてますね』
『ロジンをつけて、次の球!投げた!……またボール球を振ったァ!』
『あれを振るとか……(驚愕)』
『何とも珍しい投球ですね』
◇◇◇◇
!?!?どうなってる?俺が自らフォアボール出してやろうってのに振りやがった!
振るなよ!絶対振るなよ!
いいな!?
だぁーーー!!また振った!振るな振るなは振れのサインじゃないぞ!?
しかも今回はファールで粘りやがった!
やばい意識が飛びそう早く終わらせないと終わらせないと…。
こ、こうなったらあれしかない……
◇◇◇◇
……?なんだ?折角見逃し三振でも内野ゴロでも何でもしてやろうってのにいきなり制球が乱れた?
とりあえず空振り三振するか……
あっ、バット当たって待ってファールになってもうた……
あーやべー意識が朦朧とする。はよ終わらんとぶっ倒れるでほんま…
次のボール……
って!おお!?で、デッドボール狙いか!?ギリギリやんけ!!今のはかろうじて避けたがあぶな!!気をつけろ!!てかはよ終われ!!
◇◇◇◇
よ、避けんなー!!
苦肉の策とはいえ、怪我を危惧してチェンジアップ使ったのは裏目に出た。
早く終わらせたいのに、打者一人にどんだけ時間かけるんや……
あー汗流しすぎたーー。死ぬー。
試合は99回まで続いた。
サスペンデッド『デッド』ゲーム 吾妻 遼平 @Zyeneshisu_0406
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