第11話 後日談を《鳥男子》でやってみるとこうなる。
もとの身体に戻った翌日。
自分の身体で過ごせることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。カーくんの作ってくれた美味しいご飯を食べられるだけで大満足。わたしは朝からルンルン気分で学校へ行った。
「ゆうちゃん、ひらりちゃん、おはよう!」
校舎の前で出会ったゆうちゃんとひらりちゃんに声を掛ける。なぜか電車でいっしょにならなかったんだよね。二人とも、一本早い電車で来たのかな。
「ななちゃん、来て!」
「えっ!?」
わたしを見つけた途端、ゆうちゃんがやってきて手をつかんだ。そのままわたしは、校舎裏へ連れて行かれる。
土がむき出しの地面に描かれているのは、魔法陣!?
「ななちゃん、今から除霊をするね」
「じょ、除霊!? へっ、どうしたの、ゆうちゃん!?」
「ななちゃんには、霊が取り憑いてるの。ドジョウの霊が! 昨日、無意識にドジョウドジョウって呟いていたでしょ? それに見てよこれ。昨日の昼間、近くの空で謎の飛行物体が目撃されたって情報があるんだよ。きっとななちゃんは、この未確認飛行物体にアブダクションされて、ドジョウの生き霊を移植されちゃったのーっ!」
ゆうちゃんが見せてくれたスマホの画面には、空を飛ぶ人らしきものが写った画像がSNSにあげられている。幸い、ブレが激しくてピントも合っていないから、なにかはよくわからない。けど、見覚えのある朱鷺色のヒラヒラは、たぶんトキがいつも着けているストール。
これ、わたしがトキの身体で空を飛んだ時に撮られたんだ!?
「ななちゃんは、その結界の真ん中に立って! 今から私が除霊の儀式をするね!」
ゆうちゃん、いつの間にか巫女姿になって、お祓いに使うような紙のついた棒を持っている。
どうしよう。助けを求めるように、ずっと端で見ているひらりちゃんに視線を送る。
「なな、これ……」
ひらりちゃんはおもむろに、手にしていた小箱を開けた。見たことのある小箱は、昨日、トキに渡してもらったプレゼントだ。中から取りだした物を、見せてくる。
「やたらクオリティが高いけど、手作りっぽいし。ななが作るにしては、出来もセンスも違和感しかないのよね。だから、あたしもゆうを信じて協力するわ」
ひらりちゃんの手にあるのは、ドジョウのぬいぐるみ。
しまったーーーっ!?
ひらりちゃんへの誕生日プレゼント。わたしはニードルフェルトで、シマエナガのぬいぐるみを作ってあげようとしていたの。それで、トキにやり方を教わりながら、いっしょにやっていたんだよね。で、トキはあいかわらずドジョウのぬいぐるみを作っていて……。わたし、プレゼントの箱に、間違えてトキの作品を入れちゃったんだ!?
「ま、待って!? これにはわけが……!? えっと、その、あぁ……!?」
誤解を解きたいけど、なんて説明すればいいのかわからない。迫り来る二人の視線に耐えられない。いったんここは逃げようときびすを返すけど、あれ、目の前に透明な壁があるみたいで、前に進めないのは気のせい!?
「キェェエエエエエーーーッ!!」
「きゃぁあああああーーーっ!?」
昨夜の儀式とは比べものにならない覇気を受け、わたしは思わず悲鳴をあげた。
* * *
その頃――。
「タァァアアアアアーーーッ!?」
トキはのどかな田んぼ道を全力疾走していた。
後ろからネコの大群が、空からカラスの大群が追いかけてくる。
食べ物を捕りに来ただけなのに、なぜこうなっているのか、状況がつかめない。
「な、なんだ!? 俺がなにをしたというんだ……!?」
叫びながら、走り続ける。追いかけてくる大群は、興奮して聴く耳を持っていないようだ。
その様子を、離れた場所から二羽の鳥が見つめていた。
「ニャンニャンたちね、昨日、町でトップ権力のあるボスの子ネコを助けてくれたから、お礼を言いたくて来たんだってー」
「あのカラスらは、ボスの子ネコを誘拐しようとして妨害されたから、難癖つけに来たんだってさ」
ななの家の屋根上で、カワセミとカラスが田んぼ道を走り回るトキを見ている。二羽とも事情は把握している。助けを求める悲痛な声も聞こえるが、動こうとしない。
「カーくん、おんなじカラスなら、説得してあげれば?」
「あいつら、ハシブトだからな……。カワセミこそ、行って止めてこいよ?」
「えー、ボク、あとでニャンニャンたちの子ネコ誕生会に出る予定だから」
適当な言い訳をしつつ、傍観を決め込む。
トキとななが平和な日常を取り戻したのは、一晩が経ってから。
晴れ渡った青い空に、今日も悲鳴だけが響くのだった。
《おしまい》
恋愛小説によくある話を《鳥男子》でやってみるとこうなる。 宮草はつか @miyakusa
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