やっぱり要らないのではないでしょうか。2

 俺が千秋楽の蕩けるような表情をボーッと眺めていたら、大きめの抗議が室内に鳴り響いた。



 『キキキスしたぁぁああっ!? 千秋ぃッ!! 健ちゃんから離れろ! それはボクの唇だぞ!』



 何言ってんだこいつ。



「ち、ちげぇだろ!」


「ふ、ふふ…ねぇ、たろんちゃん、やっと帰ってきてくれたのですね」


「な、何が?」


「喉仏」


「何…のど…?」



 次は仏様か?



「無くなってますよ?」


「あれ? ほんとだ…?」



 確かに…ないぞ…? なんで?


 

「わたし、たろんちゃんの声が好きだったの。でも急激に声変わりして、怖くなって離れたの」



 そう言って俺の胸元をまさぐり始めた千秋楽。


 何の話だ…?!


 すると俺の背筋に電流が走った。



「ぁんっ!? な! え?! あれ!? お、俺にパイ乙が!?」



 生えてきただとっ!?


 なんか胸元キツいなって、それに締めたはずのウエストも緩い?! 俺も紬みたいに女体化したのかッ?!


 誰の願いだ!? 春日お前か!



『健太郎…アンタ煽るとか面白いじゃない…!』



 あ、こいつちげえわ。


 じゃあ俺か? 俺が昨日あんなに鳴かされたからか…!?


 いや神社行ってな──神社? 何か聞いたような………はッ!?



「お、おい、千秋楽、まさかお前…」


「チアキでしょ、たろんちゃん」


「お、おお…そうだったなってな…って何をする!?」



 そうして千秋楽はいつの間にか俺のズボンを脱がしにかかってきた。つよ!?


 こいつがやっぱり巫女かよ!



「ああ! 会いたかった! 小さくて可愛かったたろんちゃんに!」


「小さくねーわ! いろいろ小さくないからな! 本当だからな!」


「確かに。結構大きいですね…」


「そうだろ…ってこれじゃねーわ!」



 半脱ぎにされてわかったが、おっぱいがこの中の誰よりもデカくなっていた。


 おっも!? 何これ! すげぇ! すげぇよコレ!



「まあ、そこもいいモノですけど、それよりその穴…」


「穴…? 穴ってあれ…? 無い! 無いぞマイサンが!? はッ! まさか…」


「塞がないと天変地異が起きますよ?」


「またかよッ!」



 いい加減にしろや!



「そう、股です。たろんちゃんの股の穴を塞がないとそこから神様がお出になります」


「なんでだよっ! 出てくるの赤ちゃんだろ! って何言わすんだ馬鹿! お馬鹿! お前いったい何願ったんだ千秋!」


「たろんちゃん、環境によってオスメスは別れることもあるんですよ。例えばアオウミガメは116対1の比率で圧倒的にメスとして生まれていることが判明しています』


「何の話だ!?」


「つまりTSDですね」


「やっぱりそれかよ!!」



 TSはもうお腹いっぱいなんだよッ!!



「ちゃんとオスに戻ればチアキの初めてを差し上げます」


「なっ!」


「まあ、快楽に耐えれれば、ですけど。それまでの束の間、目眩く快楽の扉を二人で大自然を例に自然に開けましょう」


「だからそれ自然じゃないだろっ!」



 またハルヒの時のように取っ組み合いになる! こ、こいつも強い!? しかも今回は俺が変化したのに! ぐぉぉぉぉ!!



「たろんちゃん、よく考えてください。今ならわたしを好き勝手していいんですよ?」


「なぬッ!?」



 それはお前…今度こそ思い出に焼きつくんじゃないか…?



『なぬ、じゃなーいっ! 健ちゃん千秋ちゃんに騙されちゃダメぇぇ!!』



 紬はそう叫んでいるが騙されるも何もこいつも巫女パワーがつえぇんだよ!



「ふふ。抗っても無駄なのに。でもおちんちんの在る世界なんてそもそも要らないのではないでしょうか」


「要るわ! 超要るわ! 馬鹿か! お前も馬鹿か! だから俺を巻き込んでんじゃねーよ!」


「だってたろんちゃんって世界救いたいってなんか変なノートに書いてたじゃないですか」


「やっぱりお前もか! 紬ッ! お前だろ!」


『ボクじゃないよぉ!』


「何!? いや俺は騙されないぞ!」


『騙すならもっと上手く騙すよっ!』


「最低か!」


『でも…で待って待って待って! 健ちゃんが女の子…? ってことはこの壁邪魔ぁぁぁッ!!』



 そう言った紬はガンガン壁を殴り出したのか、ガラス壁側がガインガイン揺れていた。



「ひぃ!?」


『ボクがッ! 健ちゃんの! 初めてを! もらうんだからッ! このォォオオオ!!』


「何言ってんだお前ッ!」


『紬くん…残念ながらもう手遅れなのよ。アヘ顔ダブルピースはこのハルヒ様がもらったわ』


「お前も何言ってんだッ! 昨日のあれはノーカンだろ! あっ…!」


『そう、なの……? 酷い! 酷いよ健ちゃん! 健ちゃんのこのヤリマン!』


「なんて事言うんだ! つーかマンっておかしいだろッ!」


『たしかに今はマンであってマンじゃないわね。沸るじゃない。この壁邪魔よッッ!』


『おまえも何言ってんだッ! 二人して壁殴るなよ! あひんっ!? おまっ! マイドーターに何すんだ千秋!」


『え? 童貞?』


「ちげーわ!」



 違くねーけど!



「あら、思ったよりこんなに早く濡れ──」


「早くねーわ! あ、馬鹿!? 千秋! お前やめろ!」


『『壁邪魔ァァアア!!』』


「お前らもやめろや!!」


「女の子の身体は女の子が一番よく知ってるんですから」


『そうだよ健ちゃん!』


「だからお前は違うだろ!」



 出てくんな紬!



「まあ…たろんちゃんに決断は難しいのではと想像はしてました。それに流石に残り一分半じゃあ…世界は終わりますね…」


『あ〜千秋、そいつクソ雑魚だから大丈夫よ』


「春日ぃぃいいッ!!」



 クソ雑魚とか言うんじゃねーよ! 勃たなくなったらどうしてくれるんだ!!



「いえ、それでも良いんです。新世紀のイブとイブになって世の中いぶいぶ変えればいいのですから!」


「今度はイブしかいねーじゃねーか! お前もいろいろ謝れ! はひっ!?」


「もぉ、こんなにしてるくせに素直じゃないですね」


「な、なんだこの電流は!?」



 膝まで一気に震えるだと…!? ともだちんこの比じゃないぞッ!!?



『健ちゃん…それが女の子なんだよ…だから快楽堕ちしちゃうんだよ…』


「だからおまえは男だろ!」


『そうね。健太郎なんてすぐ白目でアヘッてたわ』


「それ言うのやめろやこらぁぁッ!!」


『酷いよ健ちゃん! 酷いよ! あんなに早かったのはボクに興奮してくれたんでしょ! 何とか言ってよ!』


『あら、私の時も早かったわよ?』


『そうなの健ちゃんッ!?』


「は、はぁ!? んなことねーし! つーかそんな早くなかったし! そもそも世界救うためだったし!」


『『……』』


「なんか言えやお前らッ!!」



 そして千秋は立ち上がりゆっくりとパンツを脱いで宣言した。


 タイマーは既に一分切っていた。



「さあ、貝合わせか災いか選んじゃいましょう」


「悩むだろぉがよぉぉッッ!!!」


『健ちゃんサイッテー』


『アンタ紬くんの前で最低ね』



 うっせーわ!



「ふふ、これでも?」


「うわっ!?」



 千秋によってぷるんと弾けた大きなおっぱいが、俺の判断を狂わせてくるってこれ俺のか! 俺のおっぱいか! 



「てかなんでお前らはおっぱい見せてくんねーんだよぉぉおおッ!!」


『…健ちゃんボク見せたじゃん』


「それじゃねーんだよ!」


『仕方ないわね。ほら見なさい』


「こっちから見えねーの知ってて言うなこら! てか今お前おっぱい無いだろ!」


『でもアンタさっきからやる気マンマンで脱いでるじゃない』


「ち、違うし! 世界救うためだし!」



 あと上手くねーからなッ!



「さぁ神の生贄たるたろんちゃん。このチアキしゃんより大きなたろんちゃんのたろん君をまずはクリクリ可愛がってあげますね。「うわ、なんか大きいと恥ずかしいわ…これがクリ──うひっ!? ち、千秋! そこ汚っこりぇ、りゃめ、や、あびゃッ!!?」ほれふぁほぉんほのみほぉふり──」


「ふぁぁぁぁぁぁぁん♡」



 そして俺はわずか十秒で昇天し、それから扉を閉めるかのようにして合掌し、世界を救ったのだった。





『ああ、あ、ああああ…健ちゃんが…健ちゃんが寝取られちゃっ、ネトラレラレラっちゃられら!?」


『お、落ち着いて紬くん! ろくでなしな感じになってるわよ!』


『ろくでなしは健ちゃんだよ! うわーん! 春日ちゃぁん!!』


『可哀想に…よしよし…さ、さぁ裏切りには裏切りよ! 古い恋には新しい恋よ! だ、だから紬くん…あら…やだ健太郎よりおっき──はぁぁあん♡』



 そうして薄れゆく意識の中、室内には、好かれていた男と好いていた女の嬌声が鳴り響いていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺、世界を最速で救ったった。 墨色 @Barmoral

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説