やっぱり要らないのではないでしょうか。1
俺たちには三分以内にやらなければならないことが今回はあるようだ。
だけどどうにも意図がわからない。
壁には「おせっせしないと絶対に出られない部屋リミテッド3」と書かれていた。
正確には隣の一枚ガラスで隔てられた向こうの部屋の壁にだけど。
そしてタイマーはこちらの部屋にある。
残り二分。
つまり…つまりほんとにどういうことだ? どういうつもりだ? 神様は俺に何を望んでいるんだ?
くそっ! なんなんだこの胸の痛みはっ!
「どうしましょう」
「どうもこうも…見届けるしか…無いんじゃないか…?」
ガラス奥の部屋の男女はこちらに気づいていないしな。
しかし、何故に俺たち二人がこんな目に遭わなくてはならんのだ。
いい加減あの神社、燃やそうかな。
◆
「起きましたか?」
目を覚ますと、千秋楽が俺の顔を覗き込んでいた。
「ここは……ここはどこだ?」
見渡すと、あの部屋のようであの部屋ではなかった。
「さぁ…私もわからないんですよ」
「タイトルは、ないな…」
「タイトル…ですか?」
「いや…それより…」
四方の壁の一面だけ前回までと違っていた。ガラスだ。全面ガラスの奥にこちらと同じ部屋がある。
まるで四角い箱二つをくっつけたみたいな間取りだ。
「来たことあるんですか? 随分と落ち着いてますけど」
「…うん…。とりあえずあっちの部屋はなんだろうな…」
「どことなくエッチですよね…」
そゆこと言うなよ。そりゃ少しくらいはあるけど、俺には恐怖なんだよ……はっ!
やおいは…ないな。
千秋楽の大きなおっぱいは…ある!
よし、よぉっし!
「と、ところでどれくらい寝てた?」
「えーっと、私が目覚めてからだから、一時間くらいは」
「そんなに? 起こしてくれてもよかったのに…」
「ふふ。可愛い寝顔でしたよ? くすくす…」
「で、出口はないな……なんだ…?」
何かないかとガラス部屋を覗いていたら上からギュイーンとウチの制服を着た男女が降ってきた。
紬と春日だった。
◆
ガラスの向こうには、追いかけ合う男女がいた。
「助けて健ちゃん! 犯されるよぉ!」
「逃げないで紬くん! 出来れば和姦が良いの!」
いや、男女逆転した男女と言えばいいのか。
まるで意味がわからないんだけど。
『だからボクは健ちゃんのなの!』
『わかってるわ! これはZ世代の話でシェアリングの話でしょ!』
『わかってなぁーい!』
ほんとにな。
くそっ! このままでは春日に紬が喰われてしまう! いやそれはいいのか…? いやなんか嫌なんだけど!? 絶対ハルヒに負けるんだけど! 女に負けるとか超複雑なんだけど!
何これ!? 何の気持ち!?
胸を抉るようなこの痛み何だよッ!?
◆
「ほんとにこれはなんなんだよ…」
「…千秋が…男の子?」
そう言いながら二人を見ていた千秋楽は、徐にスカートを捲った。水色、レース、ふんどしタイプ。違う。何してんだよ。女神かお前。
「せ、千秋楽…」
「あっ、見えちゃいました…? 一応確認しておこうかなと…えへへ…」
「…」
「…」
…おい神! いや神様! お前最高かよッ!!
あー、俺やっぱどんだけエグい経験してもやっぱ女の子のパンツにはやっぱ勝てないわ! やっぱ!
ヤれたというかヤラれられたんだからいいじゃんってなかなか思えなかったんだよな!
早いとか大きいとかじゃなくてさ。
そういうんじゃなくてさ。
もっとこうさ。
ラブコメって言うかさ。
エロコメって言うかさ。
心の育みって言うかさ。
そんな事を思っていたらガラス向こうの紬と春日がピタリと止まった。
「は!? なんか健ちゃんのエロい声が聞こえた!」
「私も千秋のなんかエッロい声が聞こえた!」
二人はそう言ってからキョロキョロとし、ガラス面に近づいてきた。
やっぱり見えてない…のか?
これはやはりマジックミラー的な……というかエロい声ってなんだよ。
思っただけで言ってねーよ。
「ふ、二人ともこっち見てませんか?」
そう言って千秋楽が俺の制服を摘んできた。
「しっ! もしかしたら声だけは聞こえるのかも知れない」
自分で言ってあれだが、なんだその仕様は。いや、さっきの二人の発言から心の声だけなのかも知れない。
ん? そうなると千秋楽もエロいことを考えていることになるんだけど?!
マジかよ!
「あー! また聞こえたッ! 健ちゃん! そこにいるんでしょ!」
「千秋! そこにいるの!」
「わぁっ! たろんちゃん!」
千秋楽はそう言って俺に抱きついてきた。わかる。確かに怖い。二人ともガラスに顔から張り付いていて怖い。
薄目にして張り付いてるけど、モザイクじゃねーから。
すると急に普通の壁になって二人の姿は消えた。
タイマーも消えた。
そしてこちらの壁にはリミテッド3の文字が現れた。
え…? これもしかして交代制…?
『あーっ!! やっぱりいた! 何でボクの前でちちくりあってんのさっ!』
どうやら今度はこちらが丸見えみたいだが、ここは無視だ無視。
「健太郎! 千秋に触れんな馬鹿! アンタまたアンアン言わせるわよ!」
「お前は何言ってんだ!」
『聞こえてるんじゃない! 無視すんな!』
「あっ!?」
つい声に反応してしまった!
『アンアン…? はぁ? 春日ちゃんさぁ、ボクの健ちゃんに何かしたの?』
『え! あ、ああ、何もないわ! アイツガサツでしょ? だからちょっと鳴かせたっていうか。あははは』
『許さないから!』
『ちょ、やめて紬くん! 強引なのは嫌いじゃないけど、今じゃないって言うかはあんっ!』
何やら向こうでバトルが始まったみたいだが、こちらからは見えない!
春日の艶やかな声が気になるだろ!
これは結構ストレスだな…。
「たろんちゃん…」
そう言って千秋楽は俺にギュッと抱きついてきた。そういえばさっきそう呼んでたよな。
「…懐かしいな、それ」
「ふふ…チュッ」
「はへっ!?」
急に千秋からキスされたんだけどなんだ!?
なんなんだ!?
いや昨日その前の方がおかしいのはおかしいんだけど、なんなんだよ!
はっ! そうか! わかったぞ! 今回はそう言うことか!
俺と千秋楽で男女の正しい在り方を見せつければ良いんだなっ、この変態どもに!
困るわー! 俺超困るわー!
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