第二話 俺より妹の方が強いってどういうことだよ。

 俺達、兄妹は新米の冒険者の町を向かうため森林から抜け出そうとしていた。

 

「つうか、こっちの道で本当にあってんのか?」


 人が通る道はなく、よくわからん植物を避けながら進む。

 妹は、先導するように枝や草を振り払う。


「私のマッピングスキルで大体この辺りはわかるわよ」

「ん?マッピング?」

「鑑定すればわかるでしょ」

「え、何?鑑定?スキル的な?」

「何、使えないの?」


 はい、使えません、というか使い方が分かりません。自分に何の能力があるがとか、教えてもらっていないからな。

 愚妹はどうやら、もうスキルを扱えるようだ。


「逆に何でお前は使えるんだよ」

「リーベさんが事細かく教えてくれたからね」


 俺は、適当に説明された後、すぐに転移されたんだが。

 ここは、こいつに頭を下げて教えを乞うしかないな。

 え?兄としてのプライドだって?

 そんなもの、とっくの昔に捨てている。

 

「じゃ、じゃあ、スキルの使い方教えてくれよ」

「はぁ?何でマイが?」

「だって、他に教えてくれる人いないだろ」

「はぁ~、しょうがないわね~」


 うわー、すごいどや顔。

 よくわからんが、どうやら愚妹は満更でもないらしい。 


「とにかくあんたが何使えるか鑑定しないとね~」

「鑑定はどうやったら出来る?」

「うーんと、身体にある魔力をグーンと目に集めて、ゾゾゾーって使えばいいのよ」


 うん、全くわからん。そういえば、こいつは説明下手だったな。

 小さい頃からやれば何でもできてしまう天才タイプな、愚妹は人に物事を教えるのに向いていなかった。


「じゃあ、お前、俺を鑑定してくれ」

「できないわよ、スキルレベルが足りないもの」

「何それ?」

「これも知らないの?しょうがないわね~」


 愚妹が説明するに、スキルレベルとはそのスキルの熟練度を指し、それは5段階に分けられる。

1【見習い】 2【一人前】 3【熟練】 4【達人】 5【到達者】となっている、自身以外の人物を鑑定するのには、3、熟練にならなければできないらしい。


「お前は今いくつだよ」

「スキルレベル2よ、人物以外だったら大体鑑定出来るわ」

「1じゃないのかよ」

「女神様に底上げされてるから、他にも色んなスキル貰っちゃった」

「じゃ、じゃあ俺にも色んなスキルが付いてんのか?」

「あんたには特典があるんだから、マイよりは少ないんじゃない?」

「はぁ?」

 

 それが本当マジなら、今すぐこの特典マイを返品して、チートスキルをたんまりと貰いたいのだが。

あの自称女神、この世界の主人公を一体誰だと思ってやがるんだ?


「何よ、不満なの?」

「当たり前だろうが、どこの世界に、神様から貰う特典が妹なんておかしいだろ、まるで俺が重度のシスコン兄貴みたいだろうが」

「あら?シスコン兄貴じゃない」

「俺が一体いつからシスコン兄貴になったんだよ」

「じゃあ、何でさっきからマイの後付いてきてんのよ、そうやってマイのお尻を見るために後ろを歩いてるんしょう?この変態!」


 はい、かっちーん。


「誰がお前みたいな!貧相な体見るかってーの!俺はもっとボンキュッボンのお姉さんがタイプなんだよ!」

「マイだって!いつかはボンキュッボンのスタイルになるわよ!」

「母さんの遺伝子じゃ無理だね!」

「ああ!今!マイだけじゃなくてママまで敵にまわした!」

「この世界じゃ、もう母さんはいねぇーからいいだろ!」


 あれ、そう思うと一気に悲しくなっちゃった、どうしよう。

 異世界に来て10分しか立ってないのに、もうホームシックだよ、ああ、母さんに会いたい、ついでに親父にも会いたい。あ、そうだ、俺だけ日本に戻って、こいつだけここに置いていこう、うん、そうしよう。

 すると、少し開けた場所に着いた、しかし、まだ森の中。

 中央には広めの湖が出来ており、小鳥が水を求め集まっていた。


「おお、水だ、喉カラカラだったからラッキーだな」


 小鳥が呑んでいるぐらいだし、きっと綺麗な水なんだろう。

 俺はそこに近づき、飲めるかどうか顔を覗かした。


「そこから離れなさい!」

「うん?」

 すると、湖から赤い光が二つ浮き出る。

 何これ?

 その瞬間、その生き物は勢いよく湖の中から飛び跳ねた。


「えええええ!」


 何この巨大ナマズ!?ていうか、手と足が生えているのだが!

 その巨大ナマズは、泳ぐ小鳥たちが狙いだったのか、数羽飲み込んでしまった。

 ズドンと陸に着地した衝撃波で体が振動した。


「え、何この気持ち悪いナマズ!」


 ねっとりとした緑黄色の肌がなんとまぁ気持ち悪い。

 全長5メートルあるその巨大ナマズは俺の方を見ると、蛇のように下を出し入れした。


「こいつは、レベル57、Aランクモンスターの【オオダラナマズモドキ】!背中のヒレはどんな物でも一刀両断してしまう程の鋭い刃が付いているわ!しかし、その刃は、武器の素材として重宝されている高級品よ!」


 え、何こいつ、めちゃくちゃ説明してくれるんだけど。あ、鑑定を使ったのね。


「って!そんな悠長に説明している場合か!どうすんだよ!あいつさっきから、こっちの方ずっと見てるんだけど!」

「ここはマイの出番ね!」

「いやいや!逃げるの一択だろう!」


 しかし立ち上がろうとしたが、身体が硬直してしまい動けない。


「やばいやばいやばい、なんか動けなくなっちゃった」

「それは、あのナマズモドキの威嚇スキルね、自分よりレベルの低い相手を一時的に動けなくするのよ」

「まじか!」


 そんなのありかよ?って待てよ、あのモンスターって小鳥を狙って潜んでいたんだよな?普通に威嚇スキルを使って狩りをした方がいいのではと、一瞬過ってしまったが、今は悠長に考えている場合じゃない!

 すると、愚妹がスタスタとナマズモドキの方に進んでいく。


「お、おい!何やってんだよ!」


 あいつ死ぬ気か?

 愚妹は軽く俺の方を見ると、気にせずナマズモドキの方に近づく。


「剣召喚、魔剣イフリート」


愚妹がそう唱えると、何もない空間から赤い刀身をした一本の剣が現れる。


ナ ニ ソ レ


「世界に5本しかないと言われている魔剣、その中でもトップクラスの攻撃力を持つ魔剣イフリート、大昔に神匠と呼ばれたエルダードワーフが創り上げた逸品よ」

「エルダードワーフ?」

 

 グワグワグワグワグワ!


 ナマズモドキが二足歩行で愚妹に向かって迫ってきた。

 おいおい、あいつ走りやがったぞ!

全力疾走しているとナマズっぽさを全く感じないな。

ナマズではなくナマズモドキっという名に若干納得してしまった。

 そんな状況に全く動じない愚妹は、魔剣を振り上げ、ナマズモドキまでの距離がおよそ6メートルにも関わらず大きく振り下げた。


「はぁ!」


 その瞬間、赤く燃え滾る炎の斬撃が真っ直ぐ飛翔する。

 火力が高いせいか、斬撃の周辺にある植物達は一瞬で灰になってしまった。


 グワ!!


 それは、ナマズモドキに直撃し、身体に炎が纏わりつく。

 苦しそうに藻掻く巨体を暴れさせるが、炎は弱まる事はなく、あっという間に丸焦げになり絶命した。

 

「ふん、造作もないわね」


 一切汗を掻くことなく、Aランクモンスターを瞬殺してしまった。

 愚妹はナマズモドキが動かなくなったことを確認すると、魔剣でナマズモドキのヒレを切断した。

 唖然と見る俺を置き、ナマズモドキの解体を始めたのだ。


「待て待て待て!説明しろ!色々と!」

「え?だから、このヒレは武器になるんだって、後、魔石も回収しないとね」

「いやいや、だからそうじゃなくて!」

「もー、うっさいわね、倒したからいいじゃない」


 そういう問題じゃ、ないっての。

 色々と説明不足なんだよ。

 愚妹は魔剣イフリートでナマズモドキのヒレを断ち切ると、次は腹を切り裂き、心臓の辺りの紫色の結晶を取り出した。


「はい、これが魔石、色々な用途で使われるものよ」

「何に使われるんだよ」

「(それは私から説明しましょう!)」

「うお!びっくりした」


 この自称女神、こちらから話しかけなくても出てくるんだな。

 てことは、常に行動を見られているのか、プライバシー全く考慮されてないのかよ。

 

「(おっほん、魔石には、その大きさによってエネルギーが蓄積されているわ。その溜まったエネルギーを動力源に変換させて使われることが多いわね。代表例で言うと、魔法の杖や魔剣、細かいので言うと、ランプの光や暖房装置ってとこかしら)」

「こっちの世界では生活するのに魔石が必需品になっているのか?」

「(そういう事ね、だから高値で取引されるわ)」

「へ~」


 てことは、さっき倒したAランクモンスターの魔石だったら、そこそこの値段で取引されるってことか。

倒したのは愚妹だから俺には関係のない話かもしれんが、こいつの近くにいれば甘い蜜が吸える可能性もあるわけか。


「な、なぁ、その魔石ってどこで換金するんだ?」

「冒険者ギルドって所か、そこら辺の商人のお店でも売れるらしいわ」

「へ~、お前本当詳しいな」

「あんたと違って、こっちの世界は予習済みなのよ」


 あの自称女神が事細かく教えたんだろうな。愚妹のどや顔がいちいち鼻につく。

 しかし、愚妹がここまで戦闘できるとは思わなかった。

 今の俺は、きっとレベル1とかだろうな、だからレベル57のナマズモドキの威嚇スキルにまんまとハマってしまった。

 あれ?そういえば、こいつって、威嚇スキルを食らっても動けてたよな。


「お前ってさ、レベルいくつなの?」

「は?何でそんなこと言わないといけないのよ!ま、まぁどうしてもって言うなら教えてあげてもいいけど!」


 あーめんどくせー。


「お願いします、教えてください。妹様」

「もーしょうがないわね、今のレベルは、62よ」

「それってかなり高い方だよな?多分」

「この世界の人類の平均は、レベル25よ」


 マジかよ、ってことは、こいつ人類の中でもかなり上位の人間ってことだよな。 

 ん?ちょっと待てよ、レベルってどういう条件で決まってんだ?

 よくある設定なら、モンスターを倒して経験値が入って、レベルが上がるってのが、王道だよな。

 こいつの場合は俺と同じタイミングで、この世界に来たからレベルは同じなはずだよな?


「お前何でそんなにレベルが高いの?」

「それは、あんたより先に天界に着いたから、疑似モンスターを相手に戦ったのよ、それと剣の武神様の元で修業したしね」

「何じゃそりゃ!何でお前の方が主人公ムーブしてんだよ!」


 異世界に転生する前に、武神様に鍛えられて世界最強になってしまった件かよ。

 

「何よ!なんか文句あるわけ?マイが強いおかげであのモンスターを倒したんだから別にいいでしょ!」

 

 ぐ、それを言われたらもう、何も言えなくなってしまう。

 

「そういう事だから、荷物持ちぐらいはしなさいよね」

「え、やだ」

「え、やだ、じゃないわよ!あんたはモンスターが出ても何もできないんだから、これぐらいはしなさいよ!」

 

 確かに、これから先もあんな化け物と対峙する事を考えれば、俺一人ではさすがに厳しい。

 ここで愚妹に置き去りにされれば、確実にまた天界に戻る事になる。

 仕方がないが愚妹の言うことを聞くしか、俺には選択肢がないようだ。

 だが、こいつとは、この森を抜けるまでの間だけ行動を共にするだけで、町に着いたらすぐにフェードアウトしていくからな。


「分かったよ……そのヒレを持てばいいんだろ」

「分かればよろしい」


 俺は、4mはあるヒレに触れた。

 う、すこし生臭い。

 しかし、かなり鋭利なヒレになっていることがわかる。

 刃に当たらないよう適当に縛って、引きずりながら持っていくことにした。

 重い。

 まさか、異世界に来て荷物持ちを任されるとは思ってもいなかった。

 しかし、愚妹といれば身の安全を保障されると思えば楽なもんか……。


「ほら、さっさと抜け出すわよ」

「分かったから、ゆっくり歩いてくれ、重いんだよこのヒレ」

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俺の異世界転生の特典が妹ってどういうことだよ!! 人類無敵 @nekojirou03

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