第一話 特典が妹ってどういうことだよ。
光が和らぎ段々とその世界の色が現れる。どうやら転移は成功したらしいな、あの自称女神、どうやら本物の女神だったらしい。
暖かい、これは太陽光なのか?気持ちがいいな。
薄っすら目を開け、周辺を観察すると……森。
あれ?ここって新米冒険者が集る町じゃなかったっけ?森なのだが。
「えーとこういう時って、OKリーベ様」
「(はいはいー!)」
お、頭の中に直接声が響く。すげえ。
「(さっそく使ったわね、まったくしょうがない子ね!)」
「あー転移は成功したようだけど、ここって本当に町なのか?見た感じザ・フォレストって感じなんだが」
「(ああ、少しだけ座標がずれたみたいだけど問題ないわよ)」
「はぁ?何やってんだよ」
「(何よ!あんたが動くなっていったのに、2㎝ぐらい体を動かしたからでしょう!)」
「何でそんなに精密なんだよ!とにかく、ここはどこだよ」
「(えーとちょっと待ってね)」
何だ?パラパラと音が聞こえるけど、本でも見てんのか?女神って今どきアナログなんだな、これならグーグル先生の方が100倍良いな。
「(えーとね、そこは危険度A-の嘆きの森林ね)」
「何その物騒な森林、というか危険度A-ってどんぐらい危ないの?」
自称女神の説明によると、危険な魔物がどれだけ生息するかによってそこの地帯の危険度が示される。
危険度は上から、S、S-、A、A-、B、C、D、Eになっている。
S-になると、国が総出で動かなければ攻略できないほどのものになっており、Sになると人類では対抗することが出来ないと言われている。
そして、A-に関しては、Aランク以上の冒険者パーティ複数が団結していかなければ危険な場所となっている。
「(だから、今すぐ特典を受け取って抜け出すべきね)」
「てめぇこの野郎!一番最初の異世界でなんて所に転移させてんだよ!」
この自称女神、やっぱりポンコツなのではと、俺の脳裏に横切る。やはり担当変えてもらった方がいいのでは。
「(もーう、怒らないでよ!特典もそっちに送るからそんなに怒らないでよ!)」
そういえば特典があったな、目の前の光景のせいで一瞬忘れかけてたわ。
「それがあればこの森でも簡単に抜け出せるんだろーな?」
「(余裕よ、余裕!じゃ送るから)」
ブツンと通信が途切れた。
早く送ってくれ、こんなおっかない所に無防備な格好でいさせないでくれ。早く最強の装備か武器をくれ。すると、目の前に天から光が差す。
俺の背丈ほどあるプレゼントボックスが宙からゆっくり降りてくる。
おー、なんかファンタジー。粋な送り方しやがって。
ゆっくりと地上に降りる。光は和らぎ、近づいた。
「さてさてどんな最強武器が入ってることやら、早見ナツキの無双伝説が今始まろうとしているんだな」
鼻歌を口ずさみながらその箱のリボンを解いた。四方に箱が空く。
煙のようなものが箱の中から噴き出る。
一瞬驚き、目を瞑ってしまった。
噴き出す煙が収まると、俺はゆっくり箱のあった場所に目を向ける。
人の形をした何かが突っ立っていた。
うん?
見間違いだよな。俺はそこにある面影に心当たりがあった。
腰まで伸びた紅色の髪を左右に結ぶツインテール。
胸は控えめではあるが、女性が憧れるようなスタイル。
ルビーのような瞳に、猫のようなきりっとした目尻。
その女性が歩けば、電車に乗り遅れそうになるサラリーマンでさえ足を止め振り返るほどの美少女。
そう、そいつは生意気な態度で俺を見下す。
世界で一番鬱陶しい存在。
「な、な、ななななななな、なんで!お前が!」
腰を抜かしてしまい、尻もちをついた。
そいつは、俺の足元までゆっくりと接近すると、顎を上げ、冷たい目線で見下す。
そうだ、このポジション、前世で一番記憶に染みついている。
俺の顔を見るなり、大きく溜息を吐く彼女こそ、俺の前世での妹 早見マイだった。
「マイ!何でお前がここにいるんだよ!」
「ふん、相変わらず女子受け悪そうな顔してるわね」
「女子受け悪い顔ってなんだよ!」
相変わらずの態度だな、こいつ。
俺の事嫌いなくせにどこに行っても付いて来ようとする鬱陶しい愚妹。
あーこいつの顔を見ると嫌な思い出がフラッシュバックする。
回想
教室での夕暮れ、それは青春の3ページ目にあるだろう風景。その中で、委員の仕事で二人っきりで作業する男女。
「ね、ねぇ高宮さん、実はー、その~たまたま、たまたま高宮さんの好きなアーティストのライブのチケットを、たまたま、ゲットしたから、よ、良かったら、その~、一緒に行かない?」
一世一代のデートの誘い、俺、早見ナツキの今後の展望を左右するイベントだ。
「えー!本当?わー嬉しいな~、でも、早見くんいいの?」
「え?もちろんだよ」
よし!長年片思いだった高宮さん、何とかスムーズにデートに誘えたぞ!
このチケットを手に入るため土日は一日中バイト三昧、全てはこのために努力してきたのだ。ようやく俺の時代が来た!
「えー嬉しい!じゃあ来週の土曜日に、最寄り駅に集合でいいかな?というか早見君、コネク(メッセージのやり取りができるアプリ)交換しよーよ!」
「う、うん、勿論だよ!」
ウッヒョウーーーー!!まさか連絡先さえ交換できるとは!
今まで、身内か、オタク友達の連絡先しかなかったのに、とうとう俺のコネクに女の子の連絡先が追加されるとは、最高だぜ!
「じゃあ交換しよー」
「お、おう」
すると、扉が勢いよく開く。
ガチャンと音がなり、俺と高宮さんは反射的に体を向けた。
「ってなんだよ、お前かよ」
息を荒立てる妹のマイがそこにいた。
何であいつ、息切れしてんだ?というかせっかくいい雰囲気だったのに、邪魔しやがって、いつか、お前のお姉さんになる可能性だってある人なんだぞ。
「あれ?確か早見君の妹さんだよね?どうしたの?」
「……そいつから離れた方がいい」
「はい?」
俺は一瞬で嫌な予感を悟ってしまった。
「お、おいマイ、何だよ、今委員の仕事の最中なんだよ、邪魔すんなら」
「その男は、超ロリコンの犯罪者予備軍よ、いつも妹の私の部屋でパンツを盗んでパーティを開く程の変態で、通学中の小学生の女の子を部屋の窓から、双眼鏡で覗いているような気持ち悪い奴なの!」
妹の声が教室に響き渡り、突然の事で高宮さんが口を開け固まる。
こいつは何を言ってんだ?
こんな在りもしない話を早口でよく噛まづに言えるなコイツ。
「あー、お前さ、何言って」
「え!?そ、そうなの!?早見君!」
何で信じてんの!?この人。
「ち、違うんだよ、今のはこいつの作り話だよ!お、おい!お前何しにきたんだよ!」
愚妹は、俺の言葉に全く耳を傾けず事実無根の話を高宮さんに言い続けた。
「その変態と関わるのは絶対にやめた方がいい!妹の私をいつも性的な目で見て、盗撮だってするし、たまに、お菓子を大量に買って、幼女を部屋に連れ込もうとするし!更にいうと、隙あらば、ママと私で親子丼する計画を立ててんだから!」
「おい!嘘をつくなら一個づつ言え!色々と渋滞してんだよ!」
「も、もしかして早見君、私に小学生の妹がいるのを知っているから、近づいたの?」
「あれ!?高宮さん!?」
何この人、初心通り越してなんか怖いよ。今の話信じるのか?普通。
もしかしてこの人少し残念な人だったりする?
「そうか、私の妹だけじゃ飽き足らず、私をも部屋に連れ込んで、姉妹丼をするつもりなのね?」
「ちょっとー待って!高宮さん一旦落ち着いて!」
「それ以上近づかないで!そうやって近づいて同人誌みたいな展開にもっていくんでしょう!」
「違う!そんなことするわけないでしょ!」
この出来事は何故かクラス中に広まってしまい、俺は後ろ指を指されることになったのだ。
回想終わり。
「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「え、何!?」
俺は、自分の黒歴史に精神が耐え切れず、崩壊してしまった。ここが危険な森なんて関係なく発狂してしまい、森をざわつかせてしまった。
前世で俺に彼女が出来なかったのもこいつが毎回毎回横入りしてきたせい!
ようやく妹から出奔したと思ったのに、今世でも邪魔されるのか!
「な、何よ、何で泣いてんのよ!普通、こんなに可愛い妹にまた会えて喜ぶ所じゃないの?」
「おまー!よく言えたな!お前のせいで俺の青春は、あの日以来開かなくなったんだぞ!」
「え、何の話してんのよ。せっかく女神様からの特典をマイよ!良かったじゃない」
「返却!!!チェンジ、チェンジ!おい、女神!おいこら!OKリーベ様!おい、早く出てこいよ!」
俺の怒りはもう限界突破していた。
「(ちょっと何よ?女神をそんなに頻繁に呼び出さないでよ、あんたと違って忙しいっていうのに~)」
お前は俺の担当だろうが、俺の相手をするのがお前の仕事じゃねぇーのかよ。
「特典が妹ってどういうことだよ!」
「(え?どういう事ってそういう事よ、心配しないでよ。あなたが重度のシスコンってことはマイちゃんに聞いているから、サプライズ大成功ね)」
「大失敗じゃ!」
「(もーう、何が不満なの?大好きな妹さんじゃない、ほらあなただって初めての異世界で心細いでしょう?マイちゃんがいた方がきっと楽しいわよ)」
さっきから大好きだとかシスコンだとか、この愚妹は、女神に対してもどんな説明をしたんだ?
「もう!リーベさんと何話してんのよ!」
自称女神との通信はどうやら俺限定でしか聞こえないらしい。特典ってどちらかというと、こっちなのでは?と思ってしまったが、担当がこの自称女神という事なので、それも違うと瞬時に感じてしまった。
あれ?となると、俺の特典って全く特典になってなくないか。これなら普通に何かしらのチートを貰った方が良くないか?
俺が思考を巡らせていると、それに痺れを切らしたのか、愚妹が俺の脛にローキックを炸裂させた。
「いってぇーな!」
「あんたが無視するからでしょう!」
脛の激痛に膝を突いてしまった。
蹴り痛すぎだろ!これは、後で腫れる奴だぞ。まさか、異世界での一番最初のダメージが愚妹のローキックだとは思わなかった。
「もう勝手にすれば!」
愚妹は俺を置いてどこかに行こうとするので、咄嗟に引き留めてしまった。
「って、待てよ!まだ話は終わってないないだろ、まず第一に、なんでお前までこっちに来てんだよ。お前は現世で生きてただろ。親父たちを残すなよ!」
「勝手に死んだ人には言われたくないし!」
愚妹の芯の通った声が森中に響く。
振り向いた愚妹の瞳は少し潤っているように見え、それと同時に今まで以上の憤りを感じた。
「お、俺はしょうがないだろ、神様の不手際なんだから」
「じゃあ私もその不手際よ」
「そうなの!?」
「……ふん!」
何で機嫌悪くなってんだよ。
愚妹は俺の事を気にせず、獣道をズカズカと進んだ。
「ま、まてよ」
心配なので俺も後を付いていくことにした。
町に戻ったら、さっさと出奔してやるからな。
そう心に誓うも、この後の出来事がきっかけで、俺は、しばらくの間は愚妹と行動を共にすることになる。
妹視点
あ~またやっちゃった~。
私、お兄ちゃんの事になると何でこんな態度取っちゃうんだろ。
お兄ちゃんが神様の不手際で死んじゃった事を、夢の中で神様に聞いたときは本当にびっくりしたけど、まさかあんな方法で私もこっちに来れるなんて思ってもいなかったよ。
回想
「先ほども説明しましたが、あなたのお兄さんは、こちらの不手際で亡くなってしまって申し訳なく思っているわ、それで今回は、あなたにお兄さんの好きな物を伺いたく夢の中にお邪魔したわ」
「神様の不手際?お兄ちゃんの好きな物?なんかごちゃごちゃだよ、とにかくお兄ちゃんはもうこっちの世界には戻れないんですか?リーベ様」
「そうね、本当に申し訳なく思っているわ、ごめんなさい」
「そっか……それで、何でお兄ちゃんの好きな物を?」
「私達は、お兄さんを特別に優遇することが決まったのよ、それで、お兄さんの好きな物や、性癖みたいなものを次の世界で叶えてさしあげたいのよ、ほら例えば、ロボットとか、ケモ耳の美少女メイドとか」
「…………なるほど」
「あれ?今笑った?」
「いえ!笑ってないですよ!私、お兄ちゃんの好きな物なら、よーく!知ってますよ!」
「おお、じゃあそれを教えてもらえる?」
「はい!それは……」
回想終わり
せっかく、この世界でお兄ちゃんと二人っきりなんだから、もっと素直にならないと!
お母さん達には悪いけど、私の愛は本気なんだから!
よーし初めての異世界だけど、お兄ちゃんと一緒ならなんだってできるわ、魔王だってワンパンで倒してやるわ!
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