楽勝でいっ

藤泉都理

楽勝でいっ




 忍犬には三分以内にやらなければならないことがあった。

 すべてを破壊しながら突き進むバッファローの群れを、無事に農場小屋へと送り届けることである。


 何がどうしてこうなったのか。

 最初は農場内の泥地で、おとなしく泥浴びをしていたのだ。

 バッファローの群れは。

 きゃっきゃうふふ。

 楽しそうな擬態語を存分に空中やら泥中やらに弾き出していたというのに。

 理性すらその巨躯から弾き出してしまったのか。

 一頭のバッファローが泥地から草地へと移動したかと思えば、いきなり柵へと突進。

 農場内の道路に飛び出してしまったのである。

 そして次から次へとバッファローがその一頭に続いて。今に至る。


 巨大な農場だったのが救いである。

 どこをどう突き進もうが農場内。

 木でも岩でもをいくらでも好きなだけ破壊すればよい。

 ただし、農場主が帰って来る時間までの話である。


 それまでにバッファローの群れを農場小屋に戻さなければ。

 依頼は完遂できなかったとして依頼料はなし。


(くそっ。あいつに莫迦にされる)


 相棒である忍者に。

 一人で任務できると豪語しておいて、この始末。


(いや。まだだ)


 農場主が帰って来るまで、まだ二分ある。

 幸い、バッファローの群れの方向を東北へと変えてしまえば、農場小屋へと一直線だ。


 自分を信じろ。

 忍犬は咆哮を上げてのち、唯一無二の忍術。

 影分身を発動。

 群れを先導している一頭のバッファローの背中に乗り、農場小屋へと戻ってくださいなとへりくだってお願いすると、まだ走り足りないと返事があった。


 あとどれくらいの時間を走れば満足するんだ。

 あと、二時間。

 イヤムリ。


 忍犬、謝り、分身を散らばらせ、おならを噴出。

 気絶したバッファローの群れを背負って、農場小屋へと駆け走った。

 ふへへ、いい修行になるぜと、滂沱と笑いと汗を流しながら。










「おう。依頼完遂できたって。すげえじゃねえか」

「ふ。ふふん。軽いもんよ」


 忍犬は忍者に抱えられながらも、ドヤ顔で言いのけたのであった。











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楽勝でいっ 藤泉都理 @fujitori

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