英雄

和扇

英雄のすべきこと

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


 突如として街へと襲来した魔物たち。奴らは魔王に差し向けられた刺客、ここに居る者全てを殺さんとする暴虐の獣たちだ。


 剣を手に、槍を手に。鎧を纏い、盾を持って。俺は普段から手入れを欠かしていない最強の装備を身に纏い、建物から飛び出した。


 街中に散っていた仲間たちは俺と同じように大急ぎで戦いの準備を終え、街を守る防壁へ向かって走っている。ガンガンと打ち鳴らされる警鐘は、開戦までの時間が迫っている事を告げている。


 走らなければ。急がなければ。


 防御力が十分な反面で鎧は重い。それを身に着けた俺は、どうしても軽装な弓使いに比べると足が遅い。


 腰に佩いた長剣はどんな魔物でも一刀両断、と言いたい我が相棒だ。しかし、これもまた重量がある。魔法使いが俺を追い越して走っていく姿は、街の人々からは滑稽に見えているかもしれない。


 辿り着いた、防壁だ。


 しかし防衛のためには、その上部に立たなければならない。石壁に作られた階段を大急ぎで駆け上がる。


 俺の横を細剣持った剣士が駆け上がっていった。俺より得物も鎧も軽い以上、階段を上るのはあっちの方が向いている。


 だからと言って足を止めるわけにはいかない。脚を守る脛当てやら腿当てやら、金属で補強された靴やらが、ガチャガチャと騒がしく音を立てる。今の俺の焦りをそのまま表現しているかのような騒音だ。


 ようやく階段を登り切るも流石に息が切れ、両ひざに手を突いてゼイゼイと肩で息をする。魔物との戦いはこれからだというのに、情けない話だ。


 そんな俺に、仲間が回復魔法をかけてくれた。あがっていた息がすぐさま整い、体力が回復していくのがハッキリと分かる。彼女に礼を言って俺は仲間たちの前へと進み出て、迫る魔物たちを確認できる防壁の端に立った。


 ここまで三分、俺は魔物の襲来に間に合ったのだ。


 皆が俺の声を待っている。


 腰の剣を抜き払い、その切っ先で地平の果てまでを埋め尽くす魔物の群れを指した。


「諸君!勇者たちは必ず来る!なんとしても町を、人々を守るのだ!!!」


 俺は、俺達は、おそらく死ぬだろう。


 俺達は特別な力も持たず、ただ町を守る衛兵なのだから。


 それでもやらなければならない。ここにいる全員が同じ覚悟だ。


 一体でも多くの魔物を討って奴らの数を減らし、人々を守る。


 人類の希望たる英雄たちの助けを待つ。


 ありていに言ってしまえば時間稼ぎのための駒だ。史書になんて残らない、被害報告で十把一絡げで何人なんにんと記されるようなチリみたいな存在。


 だがな、魔物ども。ここに居るのはそんなヤワな連中じゃないぞ?


 なにせ、命を賭して戦い果てようとしている英雄たちなんだからな!


 魔法と矢が放たれて戦いが始まる。


 さあ、俺の剣の錆になりたい奴はかかってこいやぁっ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

英雄 和扇 @wasen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ