とある竜の終焉
蒼井星空
とある竜の終焉
あれからどれくらいの時が経っただろうか......
「大いなる竜グラメルト様に拝謁します」
我は竜グラメルト。
地神様の命によってこの人間の国....アスガルドに住まい、行く末を眺めておる。
人間たちは忙しなく動き、争い、たまに驚くようなことを仕出かしながら連綿と日々の生活を続けておる。
我がこの場所に根ざしてから長い時間が過ぎた。
その間、我を讃え、供物を捧げてくる人間たちに力を貸し、自らの住まいの環境を整えてきたため、たまにこうやって人間が我のもとを訪れる。
今日もまたやってきて、頭を垂れておる。
人間たちからすると、この身は大きい。
当然ながら人間のいる場所には入れぬゆえ、たいてい上空に浮かぶか、大地に身を横たえて語り掛ける。
今は昼寝をしていたので、身を横たえたままだ。
「グオォォオオオォォォォォオオオオオオオオオオオ」
「グラメルト様。申し訳ございません。眠りを妨げましたことをお詫びしますので、どうかお怒りをお沈めください」
間違えた。語り掛けようとしてつい唸ってしまった。
驚かせてしまったようだな。
土下座させてしまった。
......まぁいいか。
『何用か』
我は魔法を使い、語りかける。
「はっ!ありがとうございます。あなた様と語り合う栄誉を得たこと、感謝いたします......ぐっ」
その状態から頭をさらに下げたために地面にぶつけている......
少し落ち着け......
『用件を話すがいい』
しょうもない話しだったらもう一回驚かしてやろうかと考えながら用件を聞いてみた。
竜の時は長い。これくらいは遊び心だし、許されるであろう。
「ありがとうございます。私の名はフェラン・イシュマール。アスガルド皇国の騎士爵であり、魔法師団員でございます。この度、あなた様のお住まいの守り手として任を得ましたので、ご挨拶にやってまいりました。矮小なる身ではございますが、精一杯働きますので、どうかよろしくお願いいたします」
『うむ』
この我に守りなど必要はないが、これは人間の言い方なので気にしない。
彼らの言う守りとは守護だけではなく、清掃や世話なども含んでいるということは長い時間の中で理解している。
この我にそういった世話が必要かと聞かれると、自分でもなんとかできるのは確かだが、人間にやってもらうと楽で良いというのはある。
このアスガルドという国はよくわかっている。
竜は総じてプライドが高く、世話など必要としていないが、目的を持っていることは多い。
この地に存在する竜の目的を理解してはおらぬとは思うが、こうして滞在して、敵対はしておらず、場合によっては力を貸す存在となれば、当然長くとどまってほしいと考えるのだろう。
そのために供物を捧げ、観察し、気に入られるものを探し続ける。
この目の前の人間は、今日からその任に当たるのだろう。
我には目的がある。
とある力の監視である。
この地には1,000年も昔から時折強大な人間が誕生する。
そのものは地神様が警戒するほどの魔力を使いこなす。
だから監視している。
何かあれば我がそのものを討つために。
一方で、その目的以外の部分では我はこの地を気に入っておる。
人間どもの世話も気に入っておる。
供物はうまい。
竜はその巨体に似合わず、狭い場所に入り込むのだ。
そう、力と力の間。相違点の隙間に。
そして人は強者を敬い、讃え、畏れる。
この国はまた戦乱に巻き込まれるようだ。
どれ、力を貸してやろう。
敵は悪意に染まっておる。
もし地神様があれを見れば、必ず滅しようとするだろう。
そうしないと待っているのは世界の終焉なのだから。
人間どもは理解しておらぬようだから、嘆かわしい。
そうやって悪意に身を任せば、待っているのは終焉であるにもかかわらず、欲にまみれた行動を取る。
これを討つのはもともとの竜の役目の一つだ。
世界を終わらせはしない。
「グラメルト様!いずこへ」
『出かけてくる。悪意を払ってやろう』
「ありがとうございます。ご武運を!」
争いへ介入しに行く我を見て声をかけてきた世話役に言葉を告げ、我は飛ぶ。
悪意の渦巻く地を目指して。
『矮小なる者ども。悪意に侵されし者どもよ。世界の終焉を止めるため、我が力を受けて消えるがいい』
我は炎を放ち、悪意に染まった人間どもを焼く。
その身を焼かれ、のたうち回るものどもを見渡し、私は次の攻撃に移る。
『むぅ?????』
そんな折、突然強い悪意が現れ、我を攻撃した。
『なんだ。どこから出てきた』
「ふふふふふ。ちょうどよいところに現れたな、竜よ。邪魔をするものは殺すまで。
消え失せろ神の犬!」
こいつは魔神だ。
かつて我に命を与えた地神様とは比べるべくもないが、相応の力を持った魔神。
なるほど。こんなやつがいるから悪意がこれほどまでに高ぶり、人間の軍を覆っているのだろう。
攻撃を受けた場所が瘴気に覆われ、回復してこない。竜の高い回復能力を上回る悪しき力。
我は応戦する。
炎のブレスを吐き、魔法を行使し、爪で引き裂き、尻尾で敵を叩く。
「トカゲのくせに生意気な」
『蝙蝠のくせに生意気な』
お互いに相手を罵倒し、お互いに魔法を駆使し、殴り合う。なかなか強力だ。
魔神としてそこまでの脅威ではないものの、人間では歯が立たないだろう。
ゆえに我は踏みとどまる。
踏みとどまって、敵の攻撃の中に勝機を見出し、呪文を唱える。
『アレアファルガラベルゾナク......ヴァルメルアローグ』
我の目から敵の胸にかけて光の線が走り、存在を切り刻む。
我の勝ちだ。
敵の刃も我に届く寸前だったが、崩れていく。
「グラメルト様!ご助力ありがとうございます。あなた様のおかげで戦に勝ったと将軍が感謝しておりました。どうかしばらくは傷を癒してくださいませ」
巣に帰ると心配した世話役がかけよってくる。
『言われずともそのつもりだ』
星明りが周囲を照らす中、我は思考をめぐらす。
なぜ魔神がいたのか。
なにをしていたのか。
魔神が表に出てきて戦うことなど、通常あり得ない。
我が力を卑下するわけではないが、竜が魔神を倒せるとも思えない。
しかし実際には戦い、攻撃が通り、我が勝った。
おそらく倒せてはいないが。
でもなぜだ。
今の世に魔神などいたのだろうか。
そこに思い至る。
新しい魔神か、古き魔神か。
前者であればまだ生まれたばかりで力が弱かったか。
後者であれば眠りから覚めたばかりで力が弱かったか。
理由はわからぬがそこにいたことは確かだ。
今はそこに満足しよう。
地神様の役に立ったのは間違いないのだから。
今は眠る地神様。目覚められたら報告しよう。
そうしてグラメルトは眠りにつく。
その身に受けた傷を治すために。
『!?!?!?!?』
なぜだ......
なぜ貴様が我を殺す!
我は貴様を、貴様の国を守ってやったのだぞ。
その時に受けた傷を癒しているところだというのに。
なぜ貴様が我を殺すのだ!
いまだ星明りが降り注ぐ中、グラメルトの意識は消えていく。
「申し訳ございません。グラメルト様。未来のためです。
未来のために、消えていただきます。
あなた様の助力には感謝しております。そのため私もここで消えます。
しかし、これによって未来は続く可能性をまた一つ高めることができました。
感謝します。グラメルト様。安らかに」
そう言ってその男は去る。
その男もまた役目を果たしたのだから......
とある竜の終焉 蒼井星空 @lordwind777
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