第52話 酒宴 ※


「無事終わったね」


キリトは衣装を脱ぎ終わると、両腕を上げて背伸びをして言った。


「ああ」


レイルは既に衣装を脱ぎ終わり、筋肉のついた裸の上半身を晒して寝台に寝転んでいる。


扉を叩く音がして、コルドールが顔を出した。


「...取り込み中だったか?」


「ううん」


キリトが笑って出迎える。


「俺からの結婚祝いだ。とっておきの良いやつを持ってきた」


コルドールがキリトに差し出したのは二本の葡萄酒だった。


「美味そうだな。今から一緒に飲むか」


レイルが寝台に身を起こしてそう言ったので、急きょ酒宴が始まった。



また扉を叩く音がして、キリトが扉を開けると第三騎士団長のカルザスが立っていた。


「お、やってるじゃないか。俺とあと二人いいか?」


カルザスが部屋の中を覗き込んで言う。後ろから入ってきたのは見知った顔だった。


「サガン、サイラス!」


キリトが驚いて言う。


「俺は王都行きにサガンを誘ったんだが、サイラスも行くって聞かなくてな」


カルザスは困ったように笑って言った。




メイドに頼んで杯が運ばれてくると、葡萄酒を注いで皆で立ち上がった。

レイル、キリト、コルドール、カルザス、サガン、サイラスの六人がテーブルを囲んで丸く並ぶ。


「レイル、キリト、結婚おめでとう!乾杯!」


コルドールの掛け声で乾杯をすると、皆一気に葡萄酒を飲み干した。





「ぼく、本当に、けっこんしたの?」


二杯目で既に酔いが回ったのか、赤い顔をしてキリトが言う。


「ああ、本当だ」


レイルがくすりと笑って答える。


「僕たちも、来年結婚する予定なんです」


サガンの肩に手を載せて、サイラスがさらりと言ってのけた。


「「なんだと!?」」


コルドールとカルザスの声が見事に重なった。レイルとキリトも驚いた顔をして二人を見やる。


「嘘だ。そんな予定はない」


注目を浴びたサガンは冷たい顔をして否定した。


「おい、なんだよ...」


カルザスは力が抜けたように言う。


「でも、二人はつきあってるの?」


キリトがふわふわと微笑んで言った。


「まあ、そうなるな」


サガンは苦笑を浮かべて答えた。


「それは...良かったな。サガン」


レイルは笑って言った。


「よかった。サガン、しあわせになって!」


キリトは酔った勢いのまま、テーブルの上に載せられたサガンの手に自分の手を重ねて言った。


「あ」

「おい」


今度はサイラスとレイルの声が重なる。

サガンはキリトの手を取って両手で握ると、にこりと笑って言った。


「キリトも、幸せになってね」


レイルがキリトの腕を引いて、サガンの手からキリトの手を外す。



「油断も隙もない...」


レイルの苦々しげな声に、コルドールはやれやれといったように両手を広げて見せた。


「まあ、どっちも仲良く幸せになってくれ」


コルドールが笑って言った。



あっという間に二本の葡萄酒は空になった。

カルザス、サガン、サイラスの三人は今日中に王都を発って国境の砦へと戻るのだという。

名残惜しく別れを済ませると、酒宴はお開きになった。





「あっという間に飲み干したな」


レイルが寝台に倒れこんだキリトに声を掛ける。


「...」


「キリト?飲み過ぎたか?」


レイルが寝台に近寄ってキリトの様子をうかがうと、腕を引かれた。


「レイル、すき、あいしてる」


キリトが舌足らずに言う声が堪らなく可愛い。


「俺もだ、愛している。何度言っても足りないくらい」


「...しよ?」


レイルは寝台に寝転ぶキリトの下顎に手を添えると、そっと口付けた。


「たりない、もっと...」


キリトが寝台に身を起こして、レイルの腕を掴んで可愛くねだる。

レイルは寝台の端に腰をおろすと、キリトの細い腰を抱き寄せて深く口付けた。


そっとキリトの上着を脱がせると、白い肌は酔いのためかわずかに上気して赤くなっている。胸の飾りも普段よりも赤く、熟れた果実のような色をしている。


堪らずキリトを寝台に押し倒すと、音を立てて胸に口付ける。ちゅ、ちゅと繰り返して今度は舌で舐めるとキリトは恥ずかしそうに身を捩らせた。


「そこばっかり、やだ...」


キリトは身を起こすとレイルの上に跨った。


「ぼくも、する」


言うや否や、レイルの首筋に口付ける。ちゅ、と音を立てて今度は胸に、腕に、脇腹に、割れた腹筋にと順番に口付けを落とす。キリトはうっとりと黒い瞳を潤ませて、熱に浮かされたようにレイルの体に口付けを繰り返す。


レイルは我慢できなくなって低く唸ると、猛然と体勢を入れ替えてキリトを寝台に押し倒した。


「あまり俺を煽るな。我慢が効かなくなる」


キリトはレイルに獣のような獰猛な緑の目で見つめられて、思わず身を竦ませた。


レイルは寝台の横の小机から香油を取り出し、片手で弾いて蓋を開けた。嗅ぎ慣れた香油の香りにさえ刺激されて、キリトが頬を赤らめる。


「足を開いて」


「あ...」


レイルの目に見つめられたまま、キリトが羞恥に白い肌を染め上げてゆっくりと足を開いた。


「そう、上手だ」


キリトの後孔に指を差し込むとキリトは苦しげに眉根を寄せた。


「力を抜いて」


レイルに耳元で囁かれるが、感じてしまって上手く力が抜けない。レイルはゆるく勃ち上がったキリトの中心をもう片方の手で扱いた。


「ふ、あああ」


指を締め付ける力がわずかに緩んだ事を感じて、もう一本指を増やす。二本の指でかき混ぜると、濡れた淫らな音が鳴った。


「や、ああああ、あああ」


「気持ちいいか」


「だめ、いっちゃう、レイル、も、早くきて」


「ああ」


レイルは指をずるりと抜いた。それにも感じてキリトが声を上げる。


「ああっ」


雄々しくそり返った怒張を花のように色づいたキリトの後孔に当てると、我慢ができずに一気に貫いた。


「あああああああっ」


キリトの嬌声が耳を焼く。腰を少しゆするとキリトの内壁が吸い付いて堪らない。止められなくなって何度も攻め立てると、強すぎる快感が背筋を這い上った。


「ひ、ああ、あああ、ああああっ」


「くっ」


キリトが腹に白濁を飛び散らせる。レイルも堪えられず、キリトの最奥に精を放った。






「キリト、愛している」


レイルが気を失ったように目を閉じているキリトの唇にそっと口付けして言うと、キリトはゆっくりと長い睫毛を瞬かせて目を開け、黒く輝く瞳でレイルを見つめて言った。


「レイル、僕も愛してる」





もしキリトが夢見の力で夢を見なかったら、もしキリトがその夢に誘われて旅を始めなかったら、もしキリトが森で魔狼に襲われたところにレイルが通り掛からなかったら、無かったかもしれない二人の出会い。レイルはこの世に居るか居ないか分からない神に、今なら感謝しても良いと思えた。


奇跡の子との、奇跡の出会いに、感謝を。




( 完 )

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

奇跡の子とその愛の行方 紙志木 @KamiShiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ