バッファローVS寿限無
ゴットー・ノベタン
バッファローVS寿限無
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れには三分以内にやらなければならないことがあった。
1㎞ほど先に立つ、一人の少年を破壊しなければならないのだ。
破壊に理由など無い。
彼らはKACスペシャルアンバサダーたる春海水亭氏によって『全てを破壊しながら突き進む』という修飾語を背負わされたが故に、目の前に立ち塞がる全てに対して、破壊する以外の選択肢を許されない。
三分という時間にも理由はない。
時間内に少年を破壊できれば良し。出来なければそこで、山もオチも無くこの話は終わる。それだけの事だった。
いずれにせよ、バッファロー達には関係が無い。時速65㎞で走る彼らにとって、1㎞先など1分もあれば辿り着ける。
と、不意に少年は両手を広げ、大きく息を吸って叫び出した。
「僕の名前は、寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末・雲来末・風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポ・パイポ・パイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助!! ここは絶対に通さない!!」
バッファロー達は困惑した。なんだそのやたらに長い名前は。名乗るだけで10秒は掛かっている。その間に、こんなにも距離が縮まって……
そこで、彼らは見た。寿限無がチラリと右下へ目をやったのを。
バッファロー達が土煙と共に加速し、怒りの声を上げる。
「「「ブモォォォオオオ!!!」」」
「どうやら狙いに気付いたみたいだね。そう、僕が見ていたのは文字数さ。『KAC2024 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2024~』に関する公式からのお知らせでは、『本文文字数800字以上で作品を執筆&公開してください』とある。さっきの名乗りで150字ほど稼いで、今は約770文字。お前たちが僕へ辿り着く前に、この話を終わらせてやる!」
迫るバッファロー、字数を稼ぐ寿限無。そしていよいよ800文字を超えた時、
「それで逃げられると思ったか?」
突然、バッファローの一頭が喋り出した。
「……え? がはッ……!?」
驚きの声を上げたと同時、寿限無の体が強烈な突進で吹き飛ばされる。
回転しながら宙を舞い、芝生に叩きつけられる寿限無。
「な……にが……?」
「800文字を越え、そこで物語が終わるとして。貴様がその後、俺達に破壊される運命は変わらんだろう」
先ほど喋ったバッファローが、ゆっくりと寿限無の方へ進んで来る。
「バッファローが、喋っ……」
「まだ気付かんのか。その前提を破壊した」
寿限無は目を見開いた。
目の前のバッファローは、『バッファローは喋らない』という概念そのものを破壊したというのだ。
「滅茶苦茶だ……」
「ヒントはくれてやったぞ。地の文を読み返してみろ。お前が名乗った辺りからだ」
寿限無は地の文を読み返した。
「寿限無……寿限無……これも、寿限無……まさか、お前たち……!?」
「そうだ、貴様の名前を破壊した。今のお前は寿限無寿限無……などという、長ったらしい名前ではない。ただの『寿限無』だ」
そう告げるバッファローの傍らに、更に二頭のバッファローが進み出て来る。
「キミの出典を考えれば本来、800文字なんてとっくに達成してたのさ」
「でもよう、良かったじゃねえか! これでうっかり井戸に落ちても、すぐに助けを呼んでもらえるしなあ!」
その言葉に、ゲラゲラゲラ! と一斉に嗤い出すバッファロー達。
「人の、名前を……父さんたちが、一生懸命……考えてくれた、名前を……!」
「文句は、俺達をこう定義した奴に言うんだな」
「春海、水亭……!!」
寿限無は歯噛みしながら、KACスペシャルアンバサダーへの怨嗟を呟く。
「そろそろ時間か……貴様の作戦は良かった。せめてもの情けだ、どこから破壊するかを選ばせてやろう」
ゆっくりと進み続けるバッファロー。寿限無は少し考え、答える。
「……じゃあ、ひと思いに頭から頼むよ」
「よかろう」
バッファローの脚が、寿限無の頭を踏み潰す。
「「「……っ!?」」」
寿限無の名前から『寿』の文字が破壊された瞬間、彼に残されたのは『限』『無』の二文字。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れは『無限』に飲み込まれ、二度とそこから出る事は叶わなかった。
バッファローVS寿限無 ゴットー・ノベタン @Seven_square
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