魔の3日目とは

とりのめ

そういえば今日は10月3日だった


  

 アヤメには三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは拉致されたタロウの居場所を特定することだ。


 いや、あいつ何で人質になっちゃってるの。

 人質の解放交渉に行ったんじゃなかったの。


 連絡を受け、頭を抱えたくなったアヤメだが、そんな時間すら惜しいとパソコンに向かい、タロウの居場所を特定することに全力を費やす。

 本来の目的である人質の解放自体はできたようだが、脱出の際に想定外の事態が生じたらしい。タロウはそれを回避しきれず、身柄を拘束されたようだった。

 タロウの携帯電話のGPSは幸い生きているが、それと本人が一緒にいるかはまた別問題だ。それでもタロウの携帯電話の所在はわかったので、イテツに連絡をする。指定した場所に行って、タロウもそこにいるか確認してきてほしい、と頼めば、短く了承の返事が返ってきて通話は終わった。

 大きくため息をついたところで、目の前のタイマーがまだ動いている事に気が付き、時間の刻まれているディスプレイを消した。このタイマーは時間に追われる事態に遭遇する度に動かすことが習慣となっていた。別に三分でなくてもいいのだが、なんとなくそう設定している。

 今日も『タロウの居場所を一刻も早く特定する』という任務を自分の決めた時間内に終わらせることができた。時間との勝負に慣れておけば、命のかかった土壇場でも冷静になれるかもしれないからだ。

 

 こんな、国際的な諜報機関に身を置いている以上、いつかどこかで命のやり取りをしなければいけなくなるかもしれない。共に働く仲間を救うためにも、柱である自分が揺らぐことがないように。


 最優先事項を終え、アヤメは他の雑務へと手を伸ばす。そんな折、現場に赴いたイテツから、携帯は生きていたしタロウも生きていたが状態が最悪である、との連絡を受けた。

「……どういうこと?」

『尋問の際に薬物を投与されていたようで、すぐ点滴の針は抜いたけど、これじゃあタロさんが動けるようになるまで時間がかかる。おれだけじゃタロさんを抱えて運ぶなんて無理だし、敵陣ど真ん中を肩を貸して歩いてなんていられない』

 そう言うイテツの背後で喚く声とドアを叩いているような音が通話越しに聞こえてくる。状態はいよいよ切迫しているらしい。

「どうする気?」

『籠城戦しかない。幸い、独房は頑丈だし少しは持ちこたえられそうだ』

 できる限り早く援軍を、そう言って通話は一方的に切られる。アヤメは今度こそ額に手を当てるしかなかった。しかしその手は直ぐ様、目の前のタイマーに伸ばされる。可能な限り、一刻も早く救援部隊の要請を行い、一番近い隊を現地へ向かわせることだ。

 救援が早いか、タロウの復活が早いか。これ以上、事態が悪化しないことを願うしかできない。

 

 なんといっても今日は『10月3日』、イテツとタロウがとにかく避けたい、魔の3日目と呼ぶその日だからだ。何が起こっても悪い方向にしかいかないため、二人は常々、この日だけは何があっても重要な任務を入れてくれるなとしきりに言うが、現実はそうもいかないものである。

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