二〇三話 招かざる、者共


 翌日。早速四夫人しふじんたちから返信が届けられたわけだが、みんな私との連絡が「どこぞのバカ」のせいで遮断しゃだんされていたのもあり、四夫人たちで茶会ちゃかいを開いて相談していた。


 それにより、まず見舞いにゆくとしたら四夫人の序列じょれつを考慮しよう、と決まった。


 なので、貴妃きひたる凛鈴リンレイ淑妃しゅくひたる珊瑚シャンフー妃。徳妃とくひたる紅楓ホンフェン妃。賢妃けんひたる雪梅シュエメイ妃の順で事前にいついつに、という伺いのふみを持たせます、とのことだった。申し訳なさ再び。


 段取りなんて面倒臭いの私が率先そっせんしてするべきだっただろうに。なんちゃって会議を開かせる運びになった主原因へ今一度こっそり心中で舌打ちしておいた。あのアホめ!


 我が子だろうとデレてばかりいたら将来の教育が怖い。めちゃ甘やかしそうだぞ?


 いや、いやいや私が許さんわ、そんなの。


 このコの教育は私が一手いってに担う。老師せんせいがつくまでは私が教えていこう。当たり前のことや当然のあるべき礼儀れいぎ作法さほう。もちろん、殿下を真似よ、とも言いはするが。不安だ。


 頓珍漢とんちんかんなことまで教えてしまいそうで。私とのなれそめだのとどうでもいいこと語りださないだろうな、殿下。そういうめちゃくちゃずかしい心配があることさえ恐怖。


 寝間着から着替えた私が文に一通り目を通してしばしごそごそしている間に起きだしてきた虎静フージンがぐずるのをあやしつつ、おしめを換え、ちちをやる。もう、なんか慣れた。


 この一連の朝やること、というのに慣れてしまった私がお腹いっぱいになるまで虎静に乳をやり、背を軽く叩いてげっぷさせ、しばらく抱っこしてあやしてやっていると。


 尚食しょうしょくがかりもとから帰ってきた芽衣ヤーイーの声がかすかに聞こえてきた。朝餉あさげに、たまには降りようか、ということで虎静を抱っこしたままいられるという抱っこおび紫玉ヅイーお手製)で虎静を体に固定してそっとへやをでたが。……? なんだ、騒がしいというか、誰か客か?


 どちらにせよ、迷惑極まれり。私がそでで虎静と自分の顔を隠して玄関の間が見える場所にいく、とユエが階段をあがってきた。きつねはやけに渋い顔をしている不思議。なんだ?


皇帝こうていの使いを名乗ったが胡散臭うさんくさい」


「違うだろ。陛下の使いならころもあかしこうきしめさせている筈だからな。殿下に」


「もう報せた。が、きゃつら芽衣を見て明らかに態度を変えおった。興味津々とな」


 なにそれ。後宮こうきゅうの者なら、ここ「天琳テンレイの」後宮に勤める宦官かんがんならこのみやにいる侍女じじょが人間でないことはすでに知れている。それなのに態度を変える。となれば――侵入しんにゅう者。


 私は月に言われる前に虎静をしっかり両手で抱いて階段から後ろへさがる。しばらく下が騒がしかったが、そのしばらくがすぎて騒ぎが騒動になり、大騒ぎとなっていく。


 その中に知った声。殿下の声が相手を問い詰めていく声が聞こえてきた。そして、聞こえてきたのは結構びっくりするようなことだった。騒ぎの原因となったのはなんと。


ばんはなにをしていたのだ!?」


「申し訳ありませ」


「申し訳で済むか! 敵国の、亀装鋼キソウコウの使者がなぜ俺のつまみやを直接訪ねるのだ!」


 ……。殿下、今、なんて――? 亀装鋼? それって然樹ネンシュウ皇太子こうたいしが言っていた北の奥地に皇都こうとを構える、玄武げんぶあがたてまつる国で、私の生まれたむらを襲う計画を立ててい、る?


 え、どうして。どういうこと。なぜその国の使者が私の下に来るというんだ。ありえないだろう、そんなの。国の使者ししゃ皇宮こうぐうに通されるよう決められているのではないか?


 なぜ一きさき后妃こうひといえどたかが女を訪ねてくるってんだ。まさか、そんなバカな。


嵐燦ランサン皇太子殿下、この宮の女は北の奥地にあるさびれた邑の出身でありましょう?」


「はあ?」


「ずっと、鬼のめんをつけて育った鬼の娘」


「……なにが言いたい」


「おわかりの筈。我らが光、亀装鋼皇太子殿下、羅雨ルォユー様がその鬼娘をお探しだとね」


 ――ドクン。心臓が大きく鼓動する。こいつらは確信している。私のことを。そう考えると途端恐怖が湧きあがってきた。鬼の娘だったこと、ハオの娘であることをはじに思ったことはない。むしろ誇らしくさえ思っていた。だから鬼娘と言われても全然平気だが。


 だが、でも、しかし、なんだと。亀装鋼の皇太子が私を探している? なぜ、なんの為に探しているって、探しだしてどうしようというんだ? 私になんの価値があると?


 どういう意図いとで探していたかで対応が変わってくるとは思うがきっと殿下の答は。


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