一八四話 突如として来た痛みは……


 痛い、と無理しか言っていないし、考えられていない。と、いうか息が浅く早くなっているの苦しい。あとはそう、痛みのあまり失禁しっきんしてしまったのか? 濡れていない?


 さ、最悪。いい歳こいて失禁とか恥ずか。


「た、大変っ! ちょ、みんな手伝って!」


「ぴゃっ、なんなな何事なんですか!?」


芽衣ヤーイー、清潔な布をありったけと蒸留酒アルコールびんを持っていらっしゃい! あとお湯も」


「とりあえず、これだけ先に沸かしたぞ。あとは砂菊シチウの指示で各々手伝ってやれ。わらわはこの大事おおごとをまあ、とある重大責任者に報せにいってやらねばならん。任せてよいな?」


 次から次へと声が聞こえてくるがぶっちゃけ考えられない。みんながなにか言っているようだが、その意味まで脳がまわらない。が、どうにも恥ずかしいことはない様子。


 なんで、漏らしたなんて相当恥ずかしくないか。そうこう痛い考えている間も痛いこの激痛どうにかなら痛いっな、なんとかならないものです? ちょ、泣けてくるけど。


 が、私がひとり痛みで悶絶し、叫ぶのすら痛くてできないでいる間にみんな、おそらくみやの者総出で私の寝室に詰めかけてものを置いたり、私の手に布(?)を握らせたりしてくるのでどうやら宮の、ユエが呼んできたふたりは私の「これ」に心当たりがあ、る?


 で、宮の者たちに指示を飛ばしながら髪を結いあげて頭巾をかぶったのが見えた。


 そんな宮中が上を下への騒動だっていうのに月は席を外すらしくへやをでていった。だが月の退室などすぐどうでもいいくらいの痛みが大波よろしく押し寄せてきて唸った。


 い、痛すぎる……っ! ちょ、ちょっともしもし誰か説明してくれ。「これ」はいったいなんだ? こんな体を内側から抉られるような痛み記憶の中のどれも該当しない。


 あのむらで散々暴行という暴行を浴びてきたが、そのどれよりも痛くて、しかも緩急ついて襲いかかってくる、なんてなにそれ生物かよ。激痛なんて生き物聞いたことない。


ジン様、聞こえますか?」


「ヅ、紫玉ヅイー……? ぐうっ!?」


「なりません。ゆっくり深く呼吸を。大丈夫ですわ、順調にでてきておりますので」


「で、て? なに、が……え?」


「……。静様、これ、陣痛じんつうですよ?」


 はい? じ、陣痛ですと。それは聞いたことがある。桜綾ヨウリン様から「人生で一番痛かったわねえ」と聞いていた。こどもを産み落とす時の痛み。産みの激痛だ、とかなんか。


 なるほどなるほど。これが陣痛。たしかにものすっごく痛いね、桜綾様。これは経験してみないとわからない産みの苦しみだわ。……んん? 産みの苦しみ? それって。


 てか、いつの間にやら膝を立てられお股広げられた状態になっていないか、これ。


 それに、なにか。昨日、殿下に散々あの、アレされたところに違和感がある。なにかが通っていっていない? いや、なにかが確実に私の中からでていこうとしてい、る?


 え、ちょ、怖い。怖いけどこれが陣痛であるなら今私の体はこどもを出産しようとしているんだろうか? いや、なんか紫玉の言葉通りなら順調だそうだし、痛みも最初ほどじゃなくなっている。終わるの? あとどれくらい? いや、怖い怖い怖い怖い――!


 無意識、だったが私は握らせられた布をぎゅっと握りしめてぐ、と腹に力をこめたのと同時につるん、と擬音ぎおんがつきそうなふう、私の中で動いていたなにかが通り終えた。


「っ、はー、はー……!」


緑翠リュスイ御子みこはっ!?」


「……静様」


 なんだ。耳鳴りがひどくてなにも聞こえないようで反響したように紫玉と緑翠の声が聞こえてくる。私がなんとか深い呼吸をとはあはあ言っていると緑翠が視界に現れた。


 静かだ。こう、人間の赤子あかごって生まれた瞬間からぎゃあぎゃあ泣くんじゃないの?


 ハオ静謐せいひつな山中に響く私の声を聞きとがめたように。それにしたら静かすぎる。え、まさかだが、私があんまり痛がったり、泣き言のようなことばっかり浮かべすぎて……。


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