一五五話 あやかしの味覚もそれぞれっぽい


「……。毒のたぐいはございません」


「ん。ありがとう、芽衣ヤーイー


 食前に必ず入っている毒味どくみ。私より小さな女の子にさせているのは多少抵抗があるものの他に適任てきにん者を探す方が難しい、とユエに言われてそのまま流れで任せているが……。


 あの小さい体のどこに猛毒もうどくすら瞬時に無毒化する浄化じょうか機能が備わっているのかすごく疑問である。私はただ、突っ込むのもいまさらなので眼前に並べられていく食事をつつくのに入った。ん、今日も今日とて美味しい。味つけもあっさりめで私の好みド真ん中。


 月などは「足りん」だの言って油やしょうに塩などを足しているようだが、他の侍女たちは月ほどこってりがっつりが好きでもないのでそのままの味つけで食べることが多い。


 でだ、私はあっさりしたものなら量が通常のひとと同等くらい食べられるので油脂分もそうだが塩分も体の機能上必要最低限で抑えている。芽衣は育ち盛りだし物足りないと思ったが、彼女は祖母そぼが健康にうるさいひとだったようでこの手の料理に慣れている。


 芽衣の祖母はそれはそれは厳しいひとだったらしいがこのひとも一〇〇余年前に他界しているとのことだ。……どうも、私が会ってみたいと思ったひとというかばばあ連中っつーのは死亡していることが多いようだ。桜綾ヨウリン様の祖母といい、芽衣の祖母といい。残念。


 特に芽衣の祖母というのに会ってみたかった。存命中に突如、なにがきっかけだったのか猫又ねこまたから猫人ねこびと族に進化したということだったので。そこから脈々みゃくみゃくがれている。


 芽衣の父に伝わり、芽衣に渡された。進化のたねというのが受け継がれている様子。


 あやかしについては解明されていないことが多い。と、いうか解明されていないことがほとんどだと言えよう。緑翠リュスイたちがしてくれた話ではないが、身籠みごもりと出産、授乳じゅにゅう


 それらが人間と違う。なぜ身籠る期間が短く、出産はどうだか知らないが授乳期間は異様に長いそうだし、どうなんだろう。私の場合は。身籠り期間が短いのは超怪しい。


 みながみなあやかしに対して寛大かんだい寛容かんようではないのくらい私だって知っている。中にはあやかしと聞くだけでいやな顔をするひとだってこの国、天琳テンレイだけでも結構いるし。


 まだ私が出会っていないというだけで。殿下もさすがに会う妃候補たちに「あやかしについてどう思う?」なんて訊けないだろう。だって、ここは後宮こうきゅうしきと無縁の花園はなぞの


 私の中に式、あやかしがいて~、なんて話になったら恐れられるか、汚らわしいと嫌悪されるか、いずれにせよ悟られるのは悪手あくしゅだ。だから、茶会ちゃかいの誘い文を持たせた四人は一見人間に見える者を選出した。芽衣などは尻尾しっぽがあるので悪いが論外ろんがい見目みめである。


 私はいいんだが、他のきさきたちが気を悪くしたらというのと芽衣にまかり間違って手などあげられては困ると思った結果の人選、よう選だった。……ええい、ややこしいなっ。


 いいじゃん別に。あやかしだってひとつの知能を持った種族だと思えば。あやしの力を使えるってだけで中には私たち人間よりうんとかしこくて美しい者だっている。顔も心も。


 それとも、それが逆に気に喰わない理由なんだろうか。すぐれた者をみ嫌う、と?


 それってかなり心がまずしくないか? ド貧相ひんそうだと思うんだが。優れた者は認められるべきであり、そこに種族格差をつけるなんてとんだ見下みくだし行為で浅ましくひどく醜い。


 と、いうのも押しつけがましいし、おおっぴらに言うつもりはない。ただただうちの侍女たちをけなしてきたら、という妄想もうそうの域に留まっていることを考えているだけだが。


 考えてしまう。あやかしと一心同体となっている私だからこそ思ってしまう。あのむらで差別され、搾取さくしゅされるだけのあやかし娘だ、そう見下されて生きていた私、だから。


 じつの両親にもひとつ、どころか一粒さえ心割いてもらえなかった。弟妹に「小姐あね」と認識されなかった。いろいろと考えちゃうことがある、ってのは心の余裕かもしくは。


 はたまた逆、なんだろうか。余裕がないからどうでも、よくはないがそれでも今心割くべきでないことにまで思考を遊ばせている、というのはどういう心の構造でしょう?


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