一五三話 食事を終えたらば、ごにょごにょ課題を


「ご馳走様。よし、今日も元気でいこう」


「はい、ジン様」


「昼までに各自、みやの掃除。ユエも、な」


「面倒臭いが、まあ、適当にやってやるえ」


「バカ垂れ。まじめにやれ。芽衣ヤーイー、わからないところがあったら月に訊け。今日はちょっとごにょごにょ課題を片づけねばならないんで、その、一緒にはできないんだ、な」


「? はい。わかりました」


 素直なコで、深く突っ込まないコでよかった。突っ込まれても真っ赤っかゆで静の一丁あがり、になっちゃうところだ。月は、ああクソにやにやしやがってからにボケっ!


 殿下におねだりしてやろうと思ったがやめていいだろうか、いいよな、いいもん!


 こ、この曲者くせもの中の曲者ぎつねはマジでいつか正当な理由で水牢みずろうで溺れないようにあっぷあっぷさせてやる……っ! なぁんて私の邪悪な思惑だの、計画も承知してい、るよな。


 だって、月だし。こいつが周知しゅうちできない事柄なんて想像つかない。が、一応あることはあるようで祖母に当たる天狐てんこには頭があがらないだのどうの、と旅路で聞いたっけ。


 その狐は月の一〇倍近い星霜せいそうを生きてきた、とは聞いたがそれ以上を語ることを月は拒否した。……よほどそのきつねばばあが怖いらしい。あの月が、って考えると意外すぎるが。


 ま、誰しも苦手なひとや相手はいるもんだ。苦手以上に毛嫌いする者だっていて、なかなかどうして世の中はうまいことできている。殿下と然樹ネンシュウ皇太子こうたいしの関係だってそう。


 お互いに相容あいいれないが、私があいだはさまることで渋々手を伸ばしあって、反吐へどを戻しそうな思いをしながら協力する。そうやって苦手同士でも上手にことを運んでいくのだ。


 っと、そんなくっだらない思考はポイして私は桜綾ヨウリン様からだされた課題かだいに向きあうのに書斎しょさいへとあがり、行李こうりの中からこっそり取りだした参考書籍を恐々拝読しはじめる。


 ……。……。……そして真っ赤っかになってひたすら読み進めているうちに陽がのぼり切っていたらしく、月が昼の支度ができた、と呼びに来た。月が来たのは半気遣い。


 もう半分はおちょくりに来たに決まっているので私は桜綾様愛読、皇帝こうてい陛下が皇太子殿下だった時代に愛読していたその、なんだ。閨事ねやごとつづって綴りまくった本を戻した。


 行李のふたをして外にでると月が冷やした布巾を手に立っていた。にーやにや、と。


「桜綾も意地悪よのう」


「ご厚意を意地悪呼ばわりするな」


「未経験のうぶ静には刺激的すぎぢゃろ?」


「うっせえ。ご・厚・意、だ!」


 そう、桜綾様が貸してくださった本は経験なしにはちょっとというかかなり刺激的すぎてならなかったわけで私は月が寄越してくれた布巾で顔を冷やして脳内で膨れあがるアレな妄想を強制終了させてからふう、とひとつ息ついて下の階に降りて昼餉ひるげをとった。


 ちょっと、一品いっぴんだけ残してしまったが。だってあの、とってもが悪く腸詰肉ソーセージがでてきていたものですから。これはちょっと、あの本のあとで食べるには抵抗があるだろ?


 って、誰に訊いている、私。月じゃないのだけはたしか! んなもんあのこうばし性格アホ天狐に聞かれたら、「若いのーう?」だのと言っておちょくってくるの、大確定。


 でも、とりあえず課題書籍は読んだ。読み切った読み終えてみせたのであとは実技じつぎが発揮できれば、いうことないんだろうなー。月が言っていたことは当然のアレとして男の本領発揮であろうと、女側がなにもせずごろん、しているわけにいかないだろうから。


 それこそ、いろいろな性技わざ会得えとくしていないとお話にならない、というやつです。


 なので、いやだったが、この宮で一番「その手」の知恵がある狐に午後は頼んで様々お話聞かせていただき、なんていったか、男性のその、ごにょにょをした道具を使って手取り足取り教えてくれた。う、うう、熱が、知恵と羞恥しゅうちの両方で超高熱がでそうだ。


 月は私のあわあわ、をくすくす笑いながらだったが存外ぞんがい丁寧に教えてくれた。そうして非常に濃い、これまでで最も濃かったのでは? という一日を終えてやっと夕餉ゆうげに。


 夕餉を終えてから月に「感謝するなら付き合え」と言われて酒に付き合ってやり、自動的に反芻はんすうしてしまう煩悩ぼんのう脳味噌を恨めしく思いながら甘味や軽食をさかなに飲み進める。


「発揮できるといいのう?」


「うるさい。それはもういいから!」


「むきになって可愛いことよの~」


「思ってねえこと言うなっ」


 茶化ちゃかしと抗議が混ざったりあったものの、いくさを終えて後宮こうきゅうでの日常が戻った私はほっとすると同時に、今度は女の戦かあ、と滅入めいる心地だ。まあ、愚痴ぐちっても仕方ないので適度に流されつつ、主流は握っておこう。私と、新たな仲間たちの為にも。そう思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る