はじめての――と――
一四三話 生まれて、はじめて、私は……
殿下。深刻そうな顔でどうした、とは訊かない。どうしたこうしたもないからだ。私は
月はまあ、納得いかない様子でいる。そもそも通す必要すらない、と思っている。
そういう態度で私の髪を乾かして
「失礼します。お待たせいたしました」
「いや、待ってなど……」
「それで、なんのご用事でしょう?」
私の
「
「言い訳か、それか弁明でしょうか。そのような無意味な音聞きとうございません」
私が棘、どころか刃の如き言葉を振り
と、でも思っている。考えているんだろう。違う。見当外れもすぎる。本当に全然わかっていないな、あなた。私がどうしてここまで怒っているのか。なぜ
私の怒りの
びくっ。殿下の肩が震える。とうとう私の
私は応接間の戸を閉ざして
――ぺちん。軽い、音。少なくとも殿下が予想しえなかったくらい軽いひとの肌と手が触れる音がした。殿下が驚いて目をぱちぱちさせる。私は呆れも通り越して苦笑い。
「なんという顔ですか、殿下」
「静……? え、え? ええ?」
「殿下は、なにもわかってらっしゃらない」
まったく困ったことだ、殿下。そんなことだから
素直で、正直で、
いいところ、であると同時に悪しき点でもある。そうは思いませんか、殿下? あなたはよくも悪くもまっすぐすぎるのです。だから、全責任を負おうとし、こんなふう。
たかが
それも殿下ならわかっていると思うけどどうしてだろう? こうも私のことになると
影をひそめて、隠れてしまってバカ全開しちゃうのは、どうしてですかね、殿下?
そして、私が怒っている理由。本当にわからないのだろうか? だったら病気だ。
「静?」
「――した、んですから」
「え」
「心配、したんですから……っ」
「な、え、へ?」
「殿下はお室にこもっていると聞いて安心していたのにそれなのに、いて。それだけでなく飛びだしていったりして、私の
あの時、戦場で殿下が現れただけでなく、敵将で皇太子の然樹に無策無謀極めて突っ込んでいこうとした彼を見て、胸が潰れそうになった。心が叫びをあげて臓が暴れた。
罠がある。地中に兵を仕込むくらいだから当然にその手の可能性を疑える筈なのに
それ以外はなにも浮かばなかった。どれほど
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