肆の幕 東は紙の大国――泉宝
理解してそしてだからこそ、苦しい
一〇八話 憤りの向けどころなど
果たして、これまで生きてきてここほど自分自身を憎んだことがあっただろうか?
「この、このたわけがああッ!!」
「ぐあっ!?」
熱い。頬が、殴られた箇所が熱をじんわりと持っていく。目の前には
惨めだ。
だから、月。止めてくれるな、その
だから、月は静に心を傾けた。気を配った。その上で彼女が言いにくいことも口にしてきた。俺に
諫められ、反抗心に火をつけられた俺は知らんぷりで
俺は彼女の中の
本当に笑えん。そのあまり、涙がでる。月に殴られたからではない。静を、大事な彼女を永遠に失ってしまうかもしれない。そんな最低最悪の予感に震えて、悲しくって。
「
「ああ、
「ちょ、と、待て。なぜ殿下が、ここに?」
「おい、ド阿呆皇太子」
びくっ。体が震える。月の声は厳しく冷たい。恐々見上げる先、怒りにひきつった唇の女は忌々しいと言わんばかりに俺に吐き捨ててきた。それこそ憎悪をまぶしつけて。
「ぬしが自己責任で説明せい」
「お、れ、俺、おれ、は……っ」
「言い訳なんぞ聞かぬ。ぬしのせいぢゃ」
そうだ。俺のせいだ。だが、俺の口で説明しろ、というのか。俺の
俺が悪いのだから責任持って説明させることで俺に罪を認識させ、逃れることを許さない。そうして、俺に何度でも認識させて、確認させて、俺を傷つけさせる、のだな?
それが相応しい罰だ、と。ある意味精神の処刑で済ませてやるからありがたがれ、というのだな、月? 月にとっても特別だった存在を俺の愚かしさのせいでこの手から失ったことをまっとうに、正当に責めてくれる。それはありがたくもあり、
「で、殿下?」
「――な、でくれ」
「え」
「俺を許さないでくれッ! 俺のせいだ俺のせいで俺がバカで愚かで思いあがっていたそのせいで彼女が、ジ、
取り乱す俺は
平静さを完全に失った俺は目の前にある厽岩の大きな体に、鎧に額を打ちつける。何度も何度も幾度も幾度も……。そして、それでなお
あのクソ皇太子の挑発にまんまと乗せられてしまっていたのに。いつもなら気づけただろうに、乗せられてしまったのは静が関わっていたから。あの皇太子に応答をした。
たったそれっぽっちなことが許せなくて
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