一〇〇話 クソ老害排除。やっと再開


 なのに、火はとうに消えているのにじじい錯乱さくらんして叫び続けている。まわりの他高官こうかんたちがなだめようとするが爺の目には高位こういあやかしの恐ろしさときっかけを与えた私――。


 そのふたつの情報と自身が火炙ひあぶりにったという「幻覚」しかうつってはいない。


 うわあ、大袈裟おおげさ。あの程度の幻覚でこうも取り乱すとか肝が据わっていないにもほどがあるだろうが。これで国民にはしき義務ぎむ化させよう、とかお冗談にしても笑えねえ。


 私はユエに珍しく、本当にまれなこと「よくやった」との意でぐっ、と親指を立てておいてきつねの方はまんざらでもない唇でおおよそ現状に似つかわしくない要望ようぼうを述べてきた。


夕餉ゆうげとりが食いたいのう」


「よし、奮発してこってりいこう」


 月の要望に応える私の声も笑っている。愉快ゆかいというよりは痛快つうかいな心地だ。まさか自分自身の声でクソっ垂れの官吏かんりに仕返しできるなんて嬉しすぎる。今日の月は最高だな。


 それに久しく見ていなかった月の炎の本来るべき姿というか猛々たけだけしいさまを見た。


 ここ、後宮こうきゅうに来てからは盗聴とうちょう狐火きつねびだったりしか使っていなかったので、こうした脅迫きょうはく止まりといえ脅威きょうい的なほむら、というのは久しぶりだ。旅路においてぞくを蹴散らすのに使っていて以来、だったか。……そういや殿下との二度目ましてで泉宝センホウの式をほうむったっけ?


 他に使用用途ようとがなかった。やれやれ、まだ騒いでいるが放っておこ。関係ねえ、もとい関係したくねえし。それよりは爽快そうかいだ。例の式の義務化をうたった阿呆あほうにやり返せた。


 その爺はまだうるせえ。火傷一個も負っていないんだから騒ぐ必要あるかあ? 本当になんというかまあ、お偉いさんの自己保護欲求みたいなそれはマジ大袈裟だこった。


「誰ぞ、連れだしてくれ。終わらん」


「え、や、しかし、陛下っ」


「先んじて失言しつげんしたのはそちらだ。というのに穏便おんびんに済ませてくれたことに感謝こそすれとがめるような真似をちんはできぬと思うのだが。それともなにか言いたいことでも?」


 皇帝こうてい陛下の一声で連れだせ、もっと言って退場たいじょうが命じられたが他の同期くらい歳に見える高官が心底疑問、のような声をあげて抗議こうぎしかけたが陛下は即叩き潰してくれた。


 先に失礼ぶっこいたのは向こうの方。それもあやかしがいると認識しておきながらあやかしを穢れ呼ばわりした。んなもん、月じゃなくても許さない。むしろ優しい方だ。


 月の対処はぬるい。ぬるすぎるくらい。他のあやかしたちだったら今頃あの官吏の命はなくなっていたのは想像に易い。それこそ眷属けんぞくたちを呼び寄せ、喰い殺させた筈で。


 命があるのだ。恐怖を味わっても命があるんだからそれでもうけものとしろよ。世間様が無責任に言うように。「命あっての物種ものだね」だと。「余生よせいをもらえて儲け」だってな。


 どうせ、老い先短いんだ。そんな害意がいいある老人より陛下が未来に可能性のある私たちを優遇ゆうぐうするのはなんら不思議ではない。自然なことだ。頭でっかちがなにを言えども。


 で、結局は陛下に意見しようとした官吏が騒ぐ失禁しっきん爺を連れて軍議ぐんぎへやをでていってしばらくは騒ぎが遠く聞こえていたが、それも薄れてきたので再開、となったけれど。


「式を使う隊の距離は?」


「は。非常に密となっていて連携することを大前提としているようであるとのこと」


「そうか。では、水姴すいれつの部隊編制を」


「これに」


 やはり最重要視されるのは式、あやかしの力を行使する部隊のようだ。未知みちの力を秘めたあやかしたちに対して警戒けいかいする気持ちはわかる。そして、先方、泉宝国も慎重をきっしている様子。式部隊を密に配置している、ということは「その手」の可能性を潰す為。


 叛意はんい叛逆はんぎゃく。不穏分子の混入もしくは混在を疑っているのだろう。でもなければ。


 せっかく大火力をほころう部隊を密接させておくことは逆効果。火力にすぐれるあやかし数体を従えた者が数名後衛こうえいを務める、というのならばまだわかる。けど、違っていて。


 厽岩ルイガン将軍の報告の通りなら前衛ぜんえいに優れうるであろう身体能力にひいでたあやかしとじゅつに秀でたあやかしは半々、といったところだそう。それが展開したら厄介やっかい。が、置かれている駒の布陣ふじんを見るに独特の動きを見せる模様もよう。後衛が最前列をぎ、前衛が残党ざんとう狩り。


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