九五話 突然の来訪だが、しょうがない
「で、殿下?」
「
「あの、ただそれっぽっちなことで
「静は本当に包まず言うな。邪魔するなと」
「そこまできつくは。でもまあ、近いです」
うむ。我がことながら
でも、かといって茶を
やること山積み。それもこれも殿下が私を
私は痛むこめかみを揉んで厨房にいって茶と菓子の用意をはじめる。背に
以前殿下がお土産に持ってきたいいお値段がする茶葉を使って茶を淹れる
私は月が殿下に「今日は
予定よりもずっしりした盆を持って応接間に抜けると殿下が嬉しそうに尻尾をふりふりして、は多分もなにもなく幻覚だから視覚情報を整理し直しておいた。殿下は笑顔。
笑顔で、それこそ満面の笑みでお花でも散りだしそうな表情で私が置いた盆の上に乗った食事を見て心底幸せそうに唸る一歩手前の音を零した。……本当にしょうがない。
私は
殿下は、といえば用意した食事に箸をつけて嬉しそうに花、だけでなく星とか、なにかの
はあ、本当に幸せそうに食べて。これが嬉しくないなんて血が凍っているだろう。
無邪気に、こどものように振る舞う殿下。できれば、私の個人的な意見としては威厳を以て皇太子に相応しく振る舞ってほしいのだけど。だって、なんか、台無し気分だ。
殿下には言えない。言った方がいいのかも迷いどころである。それくらい他まわりに見せる顔と違っていて、私の前だけの本音で本心なのかと思うと、こう、言いにくい。
私の前で無防備になってくれている。それだけ信用してくれていると思ったら、言うべきことも言えなくなる。それが甘やかしであろうとどうだろうと、私はいつからか。
「……すまない、静」
「はい?」
「ちょっと、もやもやしすぎていて」
「……。殿下の
「ああ。そうだな、静にも皺寄せがいく」
「絶対的な権力と引き替えの無休労働であり、心を粉砕し続ける気苦労は理解したいと思いますが、私は殿下ではありませんのでなんとも言えません。言ったところで――」
嘘臭い。ただの
この程度のこともできないのだろうか。
それはそれで
家、というよりは殿下の場合、国を守っている
殿下の立場も。自らの努めるべき事柄も。だから、殿下は私を見据えてくるのだ。
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