八九話 槍の話。私の話。いろいろ話


 なるほどね。そんな無双むそうな武器を持った御仁ごじんなら語り継がれるでしょうな。それも火性かしょうを持つ家の者ならあの家の壬葉ミヨウ将軍はうんたらかんたら、と。切々と恐ろしさをば。


 ……もしかして、皇后こうごう陛下は私に父の槍をゆずったのではなく「返した」になるか?


 だって、これは元々は(確定してはいないが)ハオの持ち物。だったら、大事な形見であろうと元の持ち主に返すという選択をなさったのかもしれない。彼女も肝が据わっていることだし。あの時、梓萌ズームォン陛下が見ていたのは私、というより中の浩、だったのかも。


 それこそ「これまでこの武具により父に武功ぶこうを立てさせていただき、感謝を」と。


 だとしたら運命とは本当に奇異きいなもの。昔、浩が武具を授けたひとの娘が私にとっての義母ははになって、武具をわざわざ授けて返してくれて、と。奇妙なこともあるもんだ。


水姴スイレツ、その武具をどこで?」


「は、梓萌陛下に下賜かししていただきました。父の形見故、大事にしてほしいからと」


「こ、ここ、こ、皇后陛下にいっ!?」


「うるせえ、ですよ」


「ぬしは言葉がおかしいがの」


「うるせえ、黙れ。余計なお世話だ、ボケ」


 おかしいのは承知の上だ、バカ。ただ、普通に対等に接していいのか、敬うべきか迷った結果だっつーの。にしても、厽岩ルイガン将軍だけでなく他のへいたちも愕然がくぜんとしているんだがどうしたこと? ……。ああ、普段後宮こうきゅうにいる皇后陛下に私が、将候補がなぜ会える?


 と、いう感じの疑問だろうか。なるほどね。そらたしかに疑問だ。でも、ここで私の立場うんたらを明かすのは、ちょっとどうなんだろうな。そう思い、皇帝こうてい陛下をちら。


 陛下は皇后陛下がその、なんだろ。すさまじい将軍の娘だというのにはじめて触れたかのような。いや、正確には将軍の娘だとは知っていたが、そこまで著名な将だとは知らなかったというところか。よって、少し驚いて呆けていたようだったがすぐ微笑んだ。


「湖での妖魚ようぎょの一件は?」


「あ、は。存じております。……もしや」


「ああ。このコが助けてくれたのだ。旅をしていると言っていたが、この才を遊ばせておくのは実に惜しいと思ってな。いろいろ段取りに時間を喰ったが住まいも歳頃の娘だし別に用意させたのもあり、紹介が今日こんにちに、こんな遠くに延びてしまったというわけだ」


「な、なるほど。対妖たいよう戦も実績がある、と」


「そうだ。亀装鋼キソウコウ、あそこはしき持ちが多い。対抗できる者の部隊があった方がいい」


 あれ? 今回、敵となるのは泉宝センホウじゃなかったっけ? キソウコウ? どこかで聞いたことがあるような。どこで誰から聞いたかも覚えていないのは重要じゃないせいか?


 でも、そうか。式持ちに特化した国もあるということなら、だから殿下に式をつけさせる令をださせた高官こうかんがいる、ということなのか。対抗できるように、ならばつまり。


 いざとなったら兵じゃなく、平民徴兵ちょうへいする心積もりでその官吏かんりは法案を提示した。疑問に思ってもいざに備えておくのは当然のことだから陛下も賛同せざるをえなかったし、殿下も失策となった時は自分が泥をかぶろうと殿下が発令した、と言っていたっけな。


 そのアホ官吏の横っ面を張ってやりたいのは私だけではないとは思うが、ま、思うだけだし確定的に不利益と理不尽を目に見えてこうむったのは天琳テンレイ中でも少ないらしい。


 とはいえ、高位こういのあやかしを使役しえきできた者は例にないそうでいたとしても中位ちゅういであってもちゅうがいいところだったと聞く。だから、この場の者にとって私は異質な存在。


 身内に宿した大鬼妖だいきようの力を行使できるだけでなく、ユエがついているのだから。月については使役している、という感じじゃないような気もするが、そこらは結構どうでも。


 重要なのはいざという時、手を貸してくれるか否かだから月は私の式に数えていいと殿下が言っていた。なので、私は考えるのが、思い悩むのがアホ臭く思えてそうした。


 月を私の式に数えたというかいざという時の戦力のひとつに計上させてもらった。


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