八五話 えっと、ある意味罰でも当たった?


「陛下、本日はどのような?」


「ああ。みな知ってのことだと思うが泉宝センホウが怪しい動きを見せておろう? 厽岩ルイガンよ」


「はっ、あやつらの軍事行動はまあ、毎度のことではありますが、此度こたびは規模が大きくなりそうだ、と斥候せっこうの者共が報告をあげております。それこそ私の軍だけでは対処が」


「うむ。そこで新しい派閥はばつとなりうる部隊をつくろうかと考えたわけだが、その隊に組み込む人員を考えて将となりうるに足る者が禁軍きんぐんには心当たらなんだ。ということだ」


 ということ。それだけ言って陛下は私に視線を寄越してきたので私もいい加減不機嫌面をやめてなおっておく。陛下に「ルイガン」と呼ばれた別格の雰囲気ふんいきを携えるひとはいぶかしむ目で私をちらり。体の線を見て女だと判断。余計意味がわからず訝っている様子。


 だよね。私だっててめえの立場だったらそう感想を抱けた。陛下の言に「まさかそんなバカな」と思っちゃうのは当たり前、ってなもの。そりゃそうだ。この会話の流れ。


 そこから想像できないなんて二軍の将どころか三流の将軍もどきがいいところだ。


「まさか、陛下。そこの女」


「察しがよくて助かる。このコ、水姴スイレツ特務とくむ部隊の将兵にあてがおうと思うておる」


若輩じゃくはいですが」


「それ以前の問題だっ! 女が禁軍になど」


 だよなー。私もそう思う。……あれ、さっきも同じようなこと考えなかったっけ?


 ってのはよくて。あの、ちょ、殿下? なにを怒っているんですか。あなたの方がよっぽどひどいことというか仕打ちというか精神的苦痛を与えやがりましたんだけどね?


 と、いうか陛下。渾名あだなのようなものにしてももうちょっと捻りませんか。それもなにを思って姴、だなんて漢字を当てているんですか。私は美しくはござぁませんですー。


 ……ん。私、どれだけ根に持つんだ。こんなしつこく陰湿いんしつにねちねち言いたかないってのは本音だけど、でもだって相応の衝撃だったんだもん。殿下、寸分も気づかず、だなんてのは正直にはっきり言って悲しかったぞ。だから殿下、殿下には庇われたくない!


 そういう意思表示に私は殿下に向けて(陛下とユエ以外見ていないのをいいことに)手振りで「余計なお世話!」と示しておいた。殿下、しょんぼり再び。謎罪悪感も再び。


 どうして私ばっかり悪いことした気分にならねば? 不公平だ、畜生。まったく。


「納得いかんか?」


「そ、れは、いかに陛下のご命令でも」


「では、そうさな。そこの一団でよいか」


「は?」


「うむ。見るのが手っ取り早い。やはり将兵たるはこぶしで語らう者であっておろう?」


 悪戯いたずらっぽい陛下の提案に厽岩将軍(多分、将軍さんだろう、彼)は「はえ?」とでも言いたげに口をあんぐり開けて呆けてしまった。いやあ、奇遇きぐうだ。私も許されるなら。


 ちょっと待って陛下。私戦いについては座学ざがくしかしていない素人以下なんですが?


 あの、皇后こうごう陛下から聞いていないもしくなにか激しく曲解が発生してないですか?


 いや、えー。いやだー。あんなムキムキむさむさしたのと喧嘩、喧嘩で済めばいいがそれでもそんなものするの。模擬もぎ戦やってみろ、ってことでしょ。そんなん無理だよ。


 陛下、あやかしをぶっ殺すのと人間と模擬戦するのは全然別物です。そこ、間違えちゃダメな点ですのでどうかよろしくどーぞ。って、言っても無理なんだろうな。うん。


 だって、陛下に指差しされて名指し、はされていないが選ばれた男たち、五名が戸惑いつつも前にでてきたのでこれもう完全にる、という選択肢しかない無情さですね。


「し、しかし、陛下。こちらが五名でそっちが二め、いや、ひとりと一体はやりに」


「ん? なんだ、一〇対二がよいのか?」


 違う! そっちじゃないでしょうが、陛下なになんなの、ボケで突っ込み待ちか?


 五対二なんて私たちが不利に決まっていると言いたいのにどうして相手の数をさらに増やそうとするんだ。変だろ、おかしいだろ。……うんうん、厽岩将軍は同意見だな。


 同意見、ではあるがちょっと、ちょこっとだけ興味が湧いてきているご様子でもあって困ったことに。陛下がここまで言う、言い切って五対二などという模擬ながら団体戦を楽しく思ってもいるみたい。その厽岩将軍の背にいる兵たちは不満そうな膨れ面です。


 まあ、そうだろうな。気持ちはわかるが私の気持ちはわかってもらえなくなっちゃったっぽいね、これは。あのね、鍛えられた兵たち五人対私と月のひとりと一体てなに?


 虐め。意地悪。あごを撫でている厽岩将軍の向こうに嵐燦ランサン殿下がそわそわしているのが見えるもここで都合つごうよく「助けて」するのはひととしてダメすぎるクズっぷりですし。


 なので、殿下にはありがた申し訳ないが、無視しておいた。殿下も意を汲んでぐ、と黙ったようだがいざ、私が危険になりそうならば、助けに入る気満々ではあるっぽい。


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