七七話 茶会、なのに、茶以外がでたぞ?


 なんだろう、と思ったがすぐに思いいたった。美朱ミンシュウ様が言ったことが引っかかったんだろうな。化粧ができない、という点が。美朱様曰くすっぴんも化粧をしたみたいだ。


 とは言われていた。そうかな? とは思うがあの美容に厳しい美朱様がおっしゃるのだからそうなんだろう。そう思って私は陛下にちょこっと申し訳なさそう眉をさげた。


「なにか理由があるのね?」


「水のが強すぎるのか、はたまた化粧品を害悪な付着物だと思っているのか肌が拒絶しまくってしまいまして。あ、そのう、高貴こうきなみなみな様に会うのに身嗜みだしなみもせずに」


「あら、わたくしはお化粧など殿方の理想の押しつけくらいに思っていますけど?」


 ……さりげなくすごいこと言うこのひと。男性の押しつけで女は化粧してこそ! と言われていると思っている、だなんて。うーん、それで最低限のお化粧を綺麗に、と?


 と、いうところで新しくなにか配られた。銀のはいにとくとくと、なんて音と共に注がれていく液体を見て背にいるユエが物欲しそうな気配をだすが無視。爽やかな甘い香り。


 三妃はそれぞれに銀杯ぎんはいに口をつけている。ので私もゆっくり、ちょっと慎重すぎるくらいゆっくりと口をつける。すう、とした甘さと涼しげながら芳醇ほうじゅんな香り。のあとにくるのは独特の辛さ、いわゆる酒精しゅせいというやつ。そう、新しくきょうされたのは酒だったのだ。


 で、予想通りだったが酒が胃に落ちたと同時かよりも早く体が酒精を無毒化(?)させてしまって、ちょっとだけ含んだ時に違和感のある果汁水ジュースのようになってしまった。


ジンも大人の仲間入りか。それとも下戸げこで」


「いや、果汁水並みに無害だけど」


「ちっ、そんなことであろうよ」


 こ、このきつねめ。ちょっと酒の仲間外れにされたからって主人に舌打ちかましやがってそれはいったいどういうことだ、てめえコラ。おかしいだろ、不自然だろ、変だろう?


 私は月のおバカをギロ、と睨むが月はねだるように私ににじり寄ってくるものだからまわりの事情、私たちの関係などを知らない他の侍女じじょは困惑した様子でおろおろする。


 特に主人である私が睨みつけるだけならまだしも、その相手、侍女姿を装っているこの狐がした主人に舌打ち、なる態度が意味不明大賞であるのだ。この侍女、何者、と。


 違うんだ。この侍女づらした酒乱狐しゅらんぎつねはただのあやかしで私とは主従関係だけど明確に上下関係は築かれていない。だから、遠慮なくおねだりに身を乗りだしてきたり、して。


「月、いい加減にしろ」


吝嗇家りんしょくか気取りかえ、静?」


「違うっつーの。我慢しろ、覚えろ、と。それにそもそもみやに帰ったら飲めるだろ」


阿呆あほうめ。皇后こうごうが振る舞う極上の酒ぞ?」


 だからなんだ。食い意地ならぬ飲み意地まで張ったやつめ。てめえ、祈禱師きとうしたちの罠にかかったどうの言っていたが、もしかして酒に釣られて……いや、さすがにないか。


 と、いうかこんなこと言ったら月がブチギレるに決まっているので言わない選択を選択しよう。てか、さ。月だって高位こういのあやかしなんだから酒精なんてあってなきが如しなんじゃないのかと思うのは私だけか? それとも酒で心地よくなるすべを会得している?


 いや、知りたくもないが。どうでもいいし。そうこうと私が月とバチゴリ視線で戦っている間に桜綾ヨウリン様から美朱様には説明が入った。月の正体。長命な獣のあやかしだと。


 美朱様は納得の顔。古来よりあやかしは酒などの娯楽ごらくを好む、とかなんとか月が言っていたことを美朱様ほどの女性が知らないわけないな。うん。でも、やっぱりダメだ。


「静、一口ぢゃ~」


「お黙りやがれ、ド阿呆。わきまえろ」


「言葉が乱れておるぞーい?」


 誰のせいだと思っていやがるこの狐。まったく、酔えもしないのに頭が痛いって。


 どういうことだよ。珍妙現象に困る私だが月に杯を渡す真似はしない。ご馳走してもらっているものをほとんど全部やることになるのは先の菓子一口とは違うったら違う!


 月は一口だけ、だとは言うがこういう時のこの狐が約束を守るなんてありえない。


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