七六話 元最高妃嬪共をバッサリして


 そりゃあ、鉄槌てっついといいますか。天誅てんちゅうにも等しいそれがくだる筈だよね。つか、ユエが異様に詳しすぎるのはここ数日の「夜遊び」に原因があるのでは? と疑う私であった。


 こいつ、皇帝こうてい陛下の晩酌ばんしゃくに付き合うにあたり陛下方の今後の後宮こうきゅう制度の改革について相談に乗っていたのではないか、と。だって、なんか酒のかめ夜毎よごと増えていっている。


 どこへ遊びいっている、とかそんなことをいちいち問いただす私じゃないので酒が増えていようが、目をつむってきたがそういうことならちょっと陛下たちに進言しようかな?


 うちのきつねを甘やかさないでください、と。月は不服、と口を尖らせそうだが、必要最低限の礼儀は払わせないと私の監督かんとく責任にも及ぶ。この天狐てんこ、道理で近頃機嫌がいい。


 やれやれ、と私が両陛下におびを考えていると庭に宦官かんがんたちがぞろぞろ現れた。


 彼らは皇后こうごう陛下とふたりのきさきたち、おまけ、で私にも順に頭をさげていったが以外に言うことはないかのように二匹、元、徳妃とくひ賢妃けんひを乱暴に立たせて引き摺っていった。


 二匹が抵抗してびーびーいうのが聞こえるが空耳ということにしてしまっていい?


 美朱ミンシュウ様と桜綾ヨウリン様が笑いあい、私には極上の笑みを向けたのはどうした理由ですか。


「前々からあのふたりの扱いには苦慮くりょしていましたのよ、ジン。これまでは陛下に訴え出なかっただけであのコの、嵐燦ランサンの陰口も山盛りいただいておりましたが、今までは決定的な手に欠けましてね。そこで「上尊じょうそん」などと耳障りのいい音を月から採用しましたの」


「月、てめえやっぱり」


「なんぢゃ。泳がすには良手であろ? ああした手合いは特別扱いをより好むし、なにより皇太子こうたいしがぬしの為にできるだけうみを取り除いておきたいから知恵を貸せ、とのう」


「え。な、殿下、が?」


「うむ。さすがのわらわも皇帝に直接口だしたりはできんからの。あの皇太子は妾の提示した案をしっかと理解。乗ってきたというわけぢゃ。その上で皇帝に一部だけ奏上そうじょうした」


 なるほど。殿下らしいといえばらしいけどそれにまんまと引っかかるあの二匹はホント皇后陛下じゃないが頭にうじが湧いていたんだろうか。いていくだけのクセ、いつまでも影響力があると思いあがって足下をすくわれた、ということなのだから。低能極み。


 ここは女のその。間違ってもばばあの嫌み寄りあいじょと違う。いつまでも高貴こうきたましいを掲げられる至高の「女」としての品位ひんいを保てる者だけが残ることができる場所、ということ。


 腐っていて、花ももつけられないばかりか新しく芽吹かんとしている女性しんめにいちゃもんをつけて品性ひんせい下劣げれつさを見せつけるなら退場しろ、と。……ある意味、政治せいじだな。


 所詮はここも、後宮も皇帝の為に用意された環境であり、一見無害な花たちをでる一方で有害さを見極めて適切適宜てきぎ処理できるか、もまた皇帝の資質ししつのひとつとなるか。


 妃たちの関係を見て、そこに膿を見つけたなら排除はいじょするのは為政者いせいしゃの心構え、ね。


 そうして整理し、有害な毒花どくばなを摘んで、他の花がのびのびと美しく咲き誇るならば冷酷さもむなし、というやつなのだろう。そこに殿下は少しだけ決め手をだしただけ。


 彼の声が幻に聞こえるようだ。「もしも徳妃か、賢妃が静にまでそしりを向けたら断罪だんざいしてくださいませんか?」と父で、皇帝で、国のおさ懇願こんがんしてくれた。私などの為に。


 気恥ずかしい。畏れ多い。そして、やはり恥ずかしい。殿下、どれだけ愛が重い?


 いやいやいや、重いは言いすぎか。えっと、愛が深すぎて足が底につきませんよ。


 ……これもどうかと思うけど、でもな。他に適切な表現ってあるか? ちょっと見つけられないんだが、私の浅学せんがくのせいで片づけちゃっていいかな。いいよね。うんよし。


「さて、邪魔蟲が永遠に、綺麗に消えたので本格的に茶会ちゃかいの本番といたしましょう」


「そうですわね、陛下。はあ、ようやっとあの厚塗りの異臭から解放され、喜ばしいことこの上ありませんわ。ねえ、静? お化粧ができないあなたこそ一番苦痛だったのではなくって? 特に徳の一切ない徳妃のベッタベタに塗りたくっただけのあの下品さは」


「殿下が言っていた化粧がくさい、苦痛というのの意味がすっごくよく伝わりました」


「そうねえ、アレはやりすぎよねえ?」


 どうやら意見は一致しているようだ。と、いうか侍女じじょたちはなぜ主の厚化粧というか分厚ぶあつ化粧を看過したのだろう。アレじゃあへたなめんより面妖めんような様で滑稽こっけいさすらあるぞ?


 と、そこで視線を覚えたのでそちらを見る。皇后陛下が目をぱちくりさせていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る