どうか、都合よくとも伝わってほしいと願う
五九話 戻りの馬車でお喋り。予告されたお誘い
「私、殿下の隣にいてもいいのかな」
「いまさら辞退は不可能ぢゃろ。第一ぬしも
「盗み聞き
「変なところで度胸があるのう。顔を見られるのはいまだに
盗み聞き、のところを
で、私が変に度胸があるというのから顔見せはまだちょっと抵抗がある部分をつついてきた。こいつは本当に意地悪だと思う。私だってそりゃあ、まっすぐ見られたいさ。
気後れするのはあの
もし、殿下がある日、正気に戻って「やはり
これまで見てきた人間と殿下は違う。理解できるのに浸透しないのは、人間に、ずっと長く虐げられてきたからだろうか? 人間と見るや邪悪で醜悪で汚らわしいとでも?
そして、それっきり車内にお喋りがでることはなく、馬車は
はあ。疲れた、ような気がする。疲れる。そんな人間としての当たり前の現象すら浩の妖気にかかればなかったことになる。少なくとも肉体の疲労は感じないように
我ながら化け物同然だなあ、と思った。ふう。息を吐いて言いようのない、心の疲労を追い払う。で、届けられた
月は「
――トン、トントン。不意に扉を叩く音。私はさっと円扇で顔を隠し、呆れ顔の月が
月も女にしては
蒼くなるべきか、とも思ったがそういえば、と皇后陛下の話を思いだして恥ずかしくなったのだ。それは「彼」が私と
「
「ああ、うん。いく」
「……。ちょおっぴり素直になってきたの」
月は私のいく、という答がわりと即答だったことにほんの少し驚いた様子だがこちらこそ即行からかってきたので私は円扇の向こうから睨みつけてやり、立ちあがり
室の外に月と一緒に抜けた私は緊張感を逃がす為、浅く呼吸して気持ちを整える。
そうして宦官の案内でこの皇宮に来て最初に殿下とお茶をした間に通されたので窓辺に寄って遠く、
ここにいるだけで研かれていく。誰に強制されることもなく自発的に女性の美を競って
女の、
ただ、皇太子だから。その一個の理由で目を逸らせず、直視せざるをえなかった。女らしく在れば在るだけそれは殿下に裏をにおわせてきたのだろう。だからこそ、なのかわからないが、殿下は女らしさからかけ離れた私を選んだ。選んでくれた。光栄で怖い。
そう、少しだけ、怖い。いつか突き放されるかもしれないと思うと恐ろしいけど。
でも少なくとも今は気に入ってくれているようなので甘えたい、と考える浅ましくて弱い私が憎たらしい。殿下のご厚意に甘えて、愚かしくも愛されたい、だなんて、ね。
本当に
この浅ましい私を見た殿下がどう思うか、ちょっと怖いものの知りたいと願う私。
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