五八話 私は今、たしかに幸せだから
「
「あ。いえ、伝える気もありません。私がこんなことになっているって知ったら
「な、なんですって……?」
「? 殿下や
だから、と私は言葉を区切った。続いたのはずっとずっと抱き続けてきた気持ち。
「だから、私は生後すぐ捨てたくなるほど醜かった、ってずっと思って。
「静、あなた……」
「なにがきつかったかってなにも知らない実の弟妹たちに
一度でいい。小姐さんと呼んでほしかった。父母が良識を取り戻していつか話してくれるかもしれない、なんて妄想は
あいつらにとって私は、
娘じゃない。そう、生まれた瞬間から私はあいつらの娘じゃなかった。ただの物々交換にだされる粗品にすぎなかった。……ああ、こんな話するつもりなかったのになあ。
私は生まれてひとりになり、
「どうして」
「?」
「なぜ、笑えるのですか、静?」
なぜ笑えるか、か。慣れ、としか言えないとこれまでは思ってきた。すべては慣れなのだと自らに言い聞かせた。
いずれおおいなる闇に引っ張られて消えていくものに、そんな一時のものに心を割くのは無駄だと思った。だけど今、私が笑ってこの
「最初は罰だと、思いました」
「え」
「殿下の相手なんて無理に決まっているのに嫌がらせで
「……」
「
本心だった。恥ずかしいことだとは思ったがこのひとに本当の心を伝えたいから。
ひとりの親であるこのひとに、私が今、どうして笑えるのか。――幸せだからだ。
あのひとに、殿下に大事だと言ってもらって。美しい、と手放しで
胸に溢れる
だけど、今は生きていてよかった。命に意味を意義を理由を見られる。それはひとえに殿下のお陰。あのひとが多少強引であっても私を
意味をこの数日ずっと考えていた。どうして私がそんな
特殊な環境。理由をつけて擦り寄られる。かと思えば陰口にさらされることさえ。
似ている。私と殿下はどことなく似た者同士だったのかも。だから殿下は無意識的に私は自覚して
「本当に、ありがとうございます」
「静」
「殿下を愛し、立派に育ててくださってありがとうございます。では、失礼します」
最後、逃げるように感謝を述べて私は
気恥ずかしくて、私なんかが「愛」だなんて言葉を使ってしまった気まずさでいた堪らなかったので本当に逃げた、というか。うん。逃げたんだな、私。
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