五七話 戦録を紐解いて思ったのは……
「
「……悲しいです」
「悲しい?」
「こんなふう、命を
「……」
「私は理不尽さに慣れています。
私は
嫌みったらしいにもほどがある。
そんな不満を発したに等しい。証拠に
硬い木の長椅子だったのだが、きちんと座布団が敷いてあったし、座り心地は不思議とよかった、と思ったのだが……。今は硬い木の感触しか感じない。座布団抜かれた?
なんて奇怪現象のようなものを疑いだすほどに沈黙が痛い。無言が苦しい。侍女たちの冷ややかな視線が心身に
「……そう。さすがね、静」
「ああの、出過ぎた口を」
「? なぜ、謝るの。あなたは当たり前のことを言った。そうね。最前線に立つ
だが、続けられた皇后陛下の声は穏やかで静かでかすかに恥ずかしそうで痛みを
私が目を白黒させていると皇后陛下はひとつ微笑み「わかりました」と一言だけ。
なにが? なにがわかったなの。私はなにひとつとしてわかっていないんだがっ!
で、侍女から
ちょ、待って。私なんかの意見をまじめに本気で受け取って
いや、そりゃあ本心だったけど。でも、だからっていって皇帝陛下に即、
「へ、陛下?」
「ありがとう、静。あなたのお陰で鈍っていた、権力に
「陛下……」
「当時、わたくしはまだたかが
そこで皇后陛下は自虐的な笑みを浮かべて「最も誇りたかったひとに、大好きだった父に逝かれてしまったのは痛恨事でしたねえ」と淋しそうに目尻をさげ、うなだれた。
その様子が、殿下によく似ていて。このひとが本当に過去の悲しみに心寄せているのだとわかった。殿下はお顔立ちは皇帝陛下に寄っていると思ったが仕草は皇后陛下似?
厳しすぎる、と美朱様は言っていたっけ。皇后陛下も言っていたが
でも、殿下のことだ。きっとその姪になにかしら気に喰わない点があったのだ。当人や身内は見逃すような細かいことが気にかかってしまった。ある意味
女が持つ多少のそういう点、こう、独特の「
苦痛、だな。私が
引水ひとつ出来ねえてめえの方がよほど無能だっつの、とは思ったが
それが今はこうして整えられた室で勉強をさせてもらえる。なんて贅沢なんだろ。
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