五〇話 一通り揃えたというか選んでもらった


 いや、流れ的に服、なんだろうけど。広げてみて私はつい「おやあ?」と首を傾げてしまった。なぜにいきなり斉胸さいきょうの方なんだろう。胸ないって言わなかったっけ、私!?


 そりゃ、ぺったんこじゃないが、それでも桜綾ヨウリン様のように豊満な体じゃないのに!


 こんなもの着たって貧相がカワイソウな感じになっちゃうだけだろうが。でも仕方ないし、裸の隣でいつまでもいるわけにいかないので着る。始終教わりながら、だけど。


 で、最後に帯を胸のところできゅ、と締めていると装飾品担当のお姉さんたちが走って帰ってきたと思ったらとっても高価そう、というか絶対目が点になるくらいお高いだろう、それこそ最高級に分類されそうなそう、繊細優美せんさいゆうびを形にした金細工きんざいくをつけていく。


 もはや確認されることもなく、有無を言わさぬ勢いだったので流されておいた。逆らっても怖いし、時間もあまりかけたくないし。だって、現上級妃じょうきゅうひたちを待たせている。


 待ってもらっているんだよな? だったらくだらないことでまごついている場合じゃないだろう、とものわかりよいフリをして着飾られていくが、そこまででもなかった。


 優雅な金細工のかんざしで髪を纏められ、首飾りには桜綾様が見繕ってくれたのよりなんでか遥かに上等な、これ、なんだろう? 綺麗な藍玉らんぎょく色の、海のような色の宝石が使ってある。こちらは銀の環にその青い宝石を嵌め込み、ふちは違う色の宝石を散りばめてある。


 耳朶みみたぶにはこちらも金の細工が飾られたようだ。重さからして、多分だけど。もう、これは鏡を見るのが違う意味で怖い。が、紅蠟ホンロウばあは容赦なかった。玻璃はり製のそれも姿見すがたみを持ってこさせて私の全身が見えるようにしてくれやがった。……誰だよ、これ、再び。


 淡い色味だが綺麗な色の織りなしによって湖の水をすくってきたような絶妙な色の衣は一応あることはある胸をささやかにりあげている。そこを金銀の装飾品がいろどって。


 衣と装飾品だけでこれほど変わるのか、と思ってしまった。斉胸の服に使われた色が青でも緑でもない絶妙な色であるのは意味……あ、四夫人しふじんみやの色とかぶらないよう?


 でも、それがまた金細工で飾り立てられていて正直にまあ、綺麗だな。あのむらにいた頃では考えられない姿をしている。むしろ、信じられない姿? と言い替えるべきか。


 ハオと同じ瞳の色がまたいい感じに服を邪魔せずにいるし、服も私を邪魔していないというこの絶妙さは素晴らしいと思うね。さすが本職ほんしょくさんたちだ。似合わせじゅつすげえな。


「一気におきさき様らしいになったのう」


茶化ちゃかすな、いちいち」


「おお、怖い怖い」


 いや、てめえ絶対怖がっていないだろ。ユエのやつ、思っていると薄布を貼った円形に持ち手がついたもの、皇后こうごう陛下が使っていた円扇えんせんを渡されたので顔の前に翳してみた。


 私としては顔が隠せるならなんでもいいけど、そうだな。これからはこういうのを使う方がいいんだろうな。殿下の体裁ていさい的にも。一応表向きはおとなしく后として、戦の場では荒っぽく在ればよりくっきり区別されるだろうか? だって、一応隠れるわけだし。


 でも、これってば必ず片手が塞がるのが難点だと思うのは長年両手が自由なめんをつけていて不自由に感じるという西方さいほうの国で囁かれる魔法、というやつか。こちらでの妖術ようじゅつに似ているそうだが。まあ、いっか。いい、ということにしておこうかな。……うーん。


 悩ましいけど、これから上級妃と皇后に会うならせめて見た目だけでも后候補らしくいようか。貴妃きひ様、というのがどういう御人おひとかわからないことだし。念を押しておく。


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