早速、なんかいろいろと大変らしい、私

四八話 え、ちょ、待て待ていろいろと!


「簡単なこと。あのわっぱにわらわ狐火きつねびをつけておいたのよ。んで、皇帝こうていとの会話を盗み聞きしただけのことぢゃて。あやつめ、ジンだけではならぬなら皇族こうぞくと縁を切る、とよ」


「……はあ!?」


「驚きぢゃ。至高しこうの身であるにもかかわらず、かなぐり捨ててでもぬしが欲しいと」


「い、や。それは相当頭が重病……っ」


「ある意味、そうであろうのう。……お? 新しい情報ぢゃ、静。ぬしの隠れみのに将軍職をして認可されそうぢゃ。あやつ、見目に似合わぬ有言実行ぶりは見上げた胆力」


「それ、胆力以上の問題だろ!」


 その後もユエから続々と報が届けられまくって私は聞くのすら恐ろしかったが、結局「ぬしの未来が知りとうないんかえ~?」という月の甘言かんげんに惑わされて聞き入りました。


 続報を整理するに、せめて四夫人しふじんくらいは据えろ、というのを落としどころにして殿下は皇帝の説得を受け入れ、私の立后りっこうともなう教養を補う為に皇后こうごう陛下の力添えや服飾品類に金銭を投じたい、というのと戦に参じるのに必要なよろいを仕立てる旨を伝えたようだ。


 ……。本当にどうしてくれる? と、いうか私がどうするという話になってくる。


 月の話、もとい狐火の盗聴から話してくれたことからして皇帝陛下はおおむね話を呑んでくれたようで、私の教育については皇后と淑妃しゅくひ、それとキヒの三人で行うようだ。


 淑妃、桜綾ヨウリン様はいいとして貴妃きひというのがどういうひとなのかわからない私としては不安、どころじゃない。い、いびられたらどうしよう。「そんなことも存じないの?」とか言われても困るどころでないくらい大困りに陥る自信ががっつり湧いてくるんだが。


 月の話では四夫人の中では皇后に次ぐ上位妃じょういひに当たるので彼女をのけて淑妃にだけ声をかけるわけにはいかない、と皇帝に説得されていて折れた、ということらしいけど。


 それってやはりアレか? 気位きぐらいが高いひとなんだろうか? あの殿下が渋ったということは。それともあまりにもきさきらしすぎて私が萎縮いしゅくするかもしれない、と思ったとか?


 うーん。判断に迷うところだが、とりあえず今日、すぐすぐのことにはならない。


 だなんて、思っていたっつか算段を勝手にしていた私はまったくもって甘かった。


 昼餉ひるげ適宜てきぎつついたあと月にほとんどやった私はなにをするともなく窓の外を眺めていたが皇宮こうぐうの門近辺が騒がしくなっていることに気づいた。なに? と思ったが馬のいななき、馬車の音からして皇帝か皇后に用事のある貴人きじんでも来たのだろう。そうしたら……。


 私にひとまずあてがわれたへやに走ってくる音が聞こえて私が振り返ったら扉が叩かれて月がでているところだった。月は用件を聞き終えて私に手招きを行ってきた不思議。


「さて、気合い入れいえ」


「は?」


「なんとも気の早いこと。早速講師役の妃たちを呼び寄せたようなのぢゃでのう?」


「……え?」


「ま、その前にきさきに相応しい服飾品を見繕うのに体の採寸をして、基本の飾りを選んだら別室にいって今度は将軍用に戦時礼装の職人とうて体をはかり、防具をあつらえるように段取りがされるそうぢゃ。忙しい。おおう、なんと多忙な最高級后妃こうひぢゃろうか」


「てめえ、月、嫌みがすぎるぞっ」


 必死で抗議してみるも、月にはいつも通りやなぎに風程度しか威力発揮されない模様。


 つまり、ほぼほぼ聞き流されているっつーわけだ。こんの性悪あやかしぎつね……っ!


 時間を戻すことができたならこのきつねを放置……できるわけがなかったので今があるのだけど。だって、しょうがない。あの山の、あの場所でぐったりしている存在を見捨てるなんて私にはできなかったんだから。できるもんか。それをしたら私は邑人むらびとの同類だ。


 大嫌いな、憎いあの邑の連中の同類だと認知されるくらいなら茶化ちゃかされるくらい。


 この程度は怒るほどのことでもないと思っておこ。だって、じゃないと血圧の高低こうてい関係なくプチプチ切れまくっていずれ大事な血管にまで被害が及んだらアホな無駄死に。


 不名誉すぎる。とか思っていると月に背を押されて室をでたら、案内の宦官かんがんが一瞬ぎょっとしたが咳払いで繕って歩きだした。……ああ、鬼面おにめんに驚いたのか。そらそうか。


 女が、それも皇太子こうたいしがべた惚れ、と自分で言うのは恥ずかしくて悶死もんししそうだが、それでも大事にする女がこんなもんつけていたらびっくりするわな。……そう、いえば。


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