六話 瑞兆の獣の脅し文句。やっと追放。旅立ち
それなのに、私にほんの少しの恵みを、実りをさも仕方ないからという
腐って、
どこにもいけない私。鬼に
誰も私を見てくれやしない。見てほしい、とも思わない私がいるのはそうだが、それでも今だって夢に見る浩のような優しいひとに見つめてもらいたい。あの日、「
あの時と同じ冷めた、凍えた表情? 無慈悲な鬼のようで恐ろしい
わからない。わかりたくない。自分を
「おい、わっぱ共」
「!? だ、誰」
「それが
「ひっ、き、ききき、
「なんぢゃ、大の男が揃いも揃って情けないことよのう。
「ひ、ひぃ、ひいいいいいぃっ!」
突如、聞こえてきた耳を刺すような悪意を持った声に聞き覚えがあった私が見る先にいる小汚い狐。
払った、というか追い払った。こちらがより正しいだろうか。しかし、困ったな。
あの大人たちが
月は私のそばに寄ってきて
だから余計なことをしてくれた。ただでさえ
そういうふざけた要望をだされそうで少しだけ怖いし、いやだ。これ以上利用されるなんて最低だ。最も低い扱いに違いない。本当にひと以下の扱いだな、そんなの……。
「どうぢゃ、妾の威厳のほどは」
「いや、アレはあいつらが言葉を
「はあ? それでアレほどのドでかい態度を取れるとな? まっこと不可思議ぢゃ」
不可思議。そこは同意するが、本当に余計な真似をしてくれたものだ、この
でも、ここで座り込んでいてもどうしようもないので家に戻った。月も私の後ろをついてくる。そして、家に帰るなり茶を
それからの日々は変わりないものだった。朝晩の水やりをして、家で家事に追われてすごす。月はさも当たり前のような顔で居座り、なにかにつけては邑人を
だから、予見はしていた。
「でていけ」
「……」
「今すぐでていけ、鬼め。情けをかけてや」
「記憶にねえな、そんな恩も情けも」
ばしっ! 硬いよくしなる木の枝が私の肩をぶつ。邑の纏め役、長老たる
いや、だけではないか。情けをかけてやった、だと? ……笑わせるな。いつ、てめえらが私に情けをかけた? てめえらが私にしたことをよもや、履き違えていないか?
てめえらに舐めさせられた
そして、そもそも、私がいなくなって一番困るのはてめえらだということを忘れていやしないだろうか。あとで戻れと言われてもお断りだ。でていけと言うならでていく。
ご命令のまま。残される田畑の世話にせいぜい
私は内心
背に邑人共のうるさい「お見送り」が聞こえる。
この意味が本当にわからないのか?
「能天気な連中よな。静という力を切って
「てめえが言うべきでないとは思うが?」
「静。中に
「必要ねえだろ」
必要ない。私のこれからの命に礼儀作法が必要になってくるだなんてありえない。
そう、思っていた。
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