二話 大凶作。贄に生まれた私の一粒幸
私が生まれたのは
でも、私が生まれた年、
邑は決断を迫られた。
そして結局その会議の日々の最中、産み落とされた私を生贄にすることを選んだ。
「ふええ、ふええぇ……っ」
しばらくは私が泣く声がしていたそうだ。だが、大人たちは山ノ神が私に気づいてあやしてくださるだろうと思い込んで山の実りを採取した。邑が生きるには充分な量を。
そして、私の泣き声を背にさっさと山をおりた。これ以上の長居は山ノ神の怒りの気に触れて、お怒りに障ってしまうから、と。……私のことなんて、どうでもよかった。
「うえええ、うえええぇんっ!」
「ずいぶんと、にぎやかだな」
「ふえ、え、えっええぇええんん!」
「……これは、なんの真似だろうか」
その時の記憶なんてありっこない筈だが、いやに鮮明な夢をずっと見続ける、私。
深く暗い山の奥で腹に響く声がした。その姿まではくっきり見えないが男の声だというのは、かろうじてわかった。声はひたすら
そりゃあそうだな。生後間もない
でも、私はそのひとが、「彼」が人間じゃないとわかったのか
「大凶作だ、とは聞いていたが」
「ふ、ふ……ぇ、えぇぇ」
「まさか、このような赤子を
「……ぇ、うぇ」
「ああ、泣くでない。無駄に余計に不要に
ああ、そう。この時、私は願えばよかったんだと夢に見る
でも、人間という生き物の本能で心の奥底が死を恐れたのだろう。だからこそ「彼」は私などに同情と
「生きたいか。なれば、この
私ははじめてこの記憶の夢を見た時、この瞬間驚いて目が覚めた。彼を、「ハオ」を宿せとそう言って、彼は赤子に確認を取る無駄をせず私の
巨大な気が自身の中に取り込まれていくのを夢に感じた。嫌悪は不思議となかったが違和感はあった、と思う。そしてのちに知ったが、彼は、浩という名の彼はその山に住まう古きあやかしで、膨大な妖気を備えた
彼と一心同体となり、私は生まれてはじめての乳すらもらえていなかったのに、その瞬間から空腹だとか渇きを覚えなくなった。浩の巨大にすぎる妖気が私の命を繫いだ。
その後、
大人たちは困惑し、皇都から物資と一緒に
彼は私に名すらないことを憐れみ、「
「こ、この
「き、よう? 鬼を!?」
「なぜ、なんだってそんなものが」
いや、てめえらが言うな。私を祠に捨てたてめえらがなにを言う。浩が私を憐れんで
祈禱師の
そして、妖映鏡の中を見た祈禱師は腰を抜かした。そこにうつっている浩を見て悲鳴をあげた、が正しい。そのあと小耳で聞くに浩はかなり有名高名な
鏡にうつったその姿は私の表情とは違って少々荒々しくなのに
邑の人間は再び話しあいの場をもうけた。祈禱師の老人も加わって。こんな恐ろしい鬼妖を宿したこどもを放っぽっておいてあとあと水に関す災害が起こってはことだと。
議題は簡単。私の処遇について。私は話しあいの場に同席させられたが、口を利いたのは唯一、浩がつけてくれた名を口にした時だけであとは空気のように扱われていた。
静と名づけられた私はこの祈禱師だけでは
いや、彼「だけが」私を守ってくれた。他の人間は私を山ノ神の気を引く為に捨てたこちらこそ
それは彼なりの愛情だったのであろう。あくまでも人間で
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