私たちの在り方

神無(シンム)

零の幕 出会いこそが発端である

私は、なぜ、生きている……?

一話 その者、ぶつけようなき憎を飼う


 生まれたその時から運は、なかった方だと思う。運があれば、こんな命は歩んでこなかった。そんなふう、自らの生まれを呪ったことなど数知れず。呪われることだって数え切れないほどあった。けっして、私が望んだことでない私の運命への呪詛を誰に――。


 いったい誰に吐けばいいのだろう。いったい誰を憎めばいいのだろう。いったいどこへ恨みを向ければいいのだろう。いったい、なぜ、私はこの世に生を受けてしまった?


 そんな考えだったから私は冷たくならざるをえなかったのかもしれない。必然で。


 だから、わからない。こんな……――。


「俺は、いたってまじめで本気だ」


 こんなふう、鋭くも柔らかに語りかけてくれたひとなんて今までいなかったから。


 淡く繊細な色味の髪。鋭く、周囲を圧倒する漆黒の瞳。整った精悍な顔立ちの男。


 極上の美男、とはこういうひとを差す。


 どうしてこうなったんだ。どうしてこんな状況になったんだ。どうして、私はここにいるんだろう。どうしてこんなふう、温かい眼差しで心地よい場でもてなされている?


「だ、そうぢゃぞ。なあ、ジン?」


「うるせえ、ユエ


 ただひとつわかるのは、こいつとの出会いがはじまりだったということだろうか?


 私に遠慮クソもなくこんなふう言い腐ったこいつ「ユエ」は思ったままを言っただけなんだろうが、クッソ余計すぎる。これで志願しているとか、冗談にもなりゃしねえ。


 仮にもしき候補、だと自負するならあるじとなる者を呼び捨てにしない。……と、思うのは私だけだろうか。まあ、こいつの呼び捨てでの「ジン」にも慣れていて動じないまま。


 それが月には面白いのか、くすくす笑われるが私はひとつとして面白くないので無視しておく。だって、無意味。そんなことしたって現状はなにひとつとて変化しないし。


 思考は堂々巡りだ。もやもやばかりが募っていくのに同じ状況に置かれている月はむしろ私のことを微笑ましく、はない。生ぬるく見守っているばかりで助けもださない。


 そもそもこうなったのはなにが原因だったんだろうか。私の、せい? 月のせいではと問う、意地の悪い腐った私はいなくなっちゃえ。他人のせいじゃ、ない。すべては私が私でいるのが悪い。……そうだ。そうだった。そうなんだった。ずっと、ずっと……。


 すべてがずっと私が悪い。そう言われてきた。「違う!」どんなに私が叫んだって叫ぼうとしたってその抵抗で反抗こそ最悪だ、と告げられた。ただ、従順で在ればいい。


 従順でいる限り、カミサマは私を見限らない。反抗すればカミサマは私を罰する。


 教え込まれてきた。叩き込まれてきた。そうしていつしか逆らうのが面倒になったある日のこと。大人たちが、いつも私を「導いてやっている」と偉ぶる者たちが言った。


 私がいる限り、生きて従順でいる限りこのむらは「水」に困ることはないから占めたもんだ。そんなふう高笑っていた。聞いても私はなにも覚えなかった。ただ空虚だった。


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