緊急事態発生

喰寝丸太

緊急事態発生

 男には三分以内にやらなければならないことがあった。


 時間は数分前に遡る。

 男は小腹が空いた。

 こんな時のためにカップ麺が用意してある。

 ヤカンで湯を沸かし、注ぎ込んだ。

 ちらっと黒い物が目に映る。

 憎いGだ。

 殺虫剤を。


 駄目だ。

 カップ麺に掛かるとスープを飲む時に殺虫剤の味がしてしまう。


 持久戦の構えでじっくり仕留める。

 駄目だ。

 麺が伸びてしまう。


 三分以内に方をつけないと。

 カップ麺を食っている時に邪魔されたくない。


 蠅叩きを手に取った。

 が、カップ麺が邪魔だ。


 くそっ、叩き難い場所を熟知している。

 カップ麺の容器が暖かいので、そこにへばりついて離れない。


 そうだ、冷却して、ゴキブリの動きを鈍らせるスプレーがある。

 あれなら殺虫剤の味はしないはず。


 ブシューとな。

 ゴキブリは動きが鈍ったようだが、動かない。


 そうだ、熱湯だ。

 冷やしてからの熱湯攻撃。


 床が少し濡れるぐらいは享受しよう。

 ヤカンのお湯をGに掛ける。

 Gは羽ばたいた。


 空中なら素早く動けまい。

 った。


 Gはカップ麺の蓋に当たり内側へ入るかと思われた。

 くそっ、このままでは。


 そのとき、白い影が颯爽と現れて、Gを捕獲した。

 白猫の同居人ハクアだ。

 いつもはGを獲って来るなよと文句を言っていたが、でかした。


 ハクアはGの死骸を俺の前に置いて誇らしげ。

 ピピっと3分を報せるキッチンタイマーの電子音がした。


 カップ麺に手を伸ばすと、くれニャンとばかりにハクアがじゃれついてくる。


「これはお前に毒だから。ペットフードで我慢しとけ。なっ」


 猫パンチがカップ麺に炸裂。

 くっ、死んでもこれは離さん。

 冷却スプレーを転がした。

 ハクアはそれを追わずに、カップ麺の容器に穴を開けた。

 唇を付けたいがそこはGがくっ付いていた場所じゃないか。

 箸を穴にいれ漏れを防ぐ。


 立ち上がり、ハクアを足でけん制しながら、別の箸を取ってカップ麺を食おうとした。

 足裏に、ぐにゅ、チクっという感触が。

 気づいたらカップ麺は宙を舞っていた。

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緊急事態発生 喰寝丸太 @455834

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