印象か思い込みか幻影か

 父の話であった。ある年の夏の盛りの終わり際に、家庭菜園の奥に倒れているのを私が発見した。時期的に、もう少し涼しければ良かった、と思わざるを得ないわけだが。

 私も医師の診察も無しに看取るというのも初めてだったうえ、第一発見者ということで、一般認識として警察にあるというカツ丼を食わせて貰えそうな部屋まで行き証言する、という稀有な経験をしたのである。

 司法解剖した医師が

「これは三日前に転んで其処にあったブロックの角に後頭部をブツけた。即死だったに違いない」

そう言うのだ。そういう事だそうだ。もっと時が進んでいれば酷い死体状況になっていた事は想像に難くない。これで死亡日時がわかり、死亡届が正式に作成され、あとは常のとおり流れ作業で人の死が、親の死が処理されていく。その筈だったのだ。

 死亡日時について、警察も周囲に聞き込みをしたらしいのだが、その中に、おかしな、非常に不思議な話が一つあった。司法解剖したので死亡日時こそ覆らない事はそうなのだが、

「死亡日時の翌日に家庭菜園で作業しているのを見た」

と、隣家の50代女性が証言しているのだ。

 その方、別に認知症も何も患っていない健康体であり、これには一同頭を捻るばかりであった。

 捻った頭で考え出されたのは、

「化けて出た」

であり、生前の”怪力乱神を語らず”という本人からは逸脱している。しかし、医学的には既に死んでいるはずなのである。

 まさか本人も化けて出たとは思うまいが、こうやって怪談が作られていくのだろう、という事と、親族一同

「折角、化けて出るんだったら夢枕にで立ってくれたら良かったのに」

と笑い合ったのもいい思い出だ。

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怪力乱神を好まず @fukakou_

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