モフモフ【ヌイグルミ国】ウサギ会社員ウサコのムカつく同僚への殺害ルーティン

楠本恵士

第1話・ウサコの抱いた殺意〈完結〉

 ヌイグルミ国の、モフモフ・ウサギ会社員『ウサコ』は、同じ職場の『バコシヤ』〈仮名〉が大嫌いだった。


 以前、職場にいた『オカドー』というヌイグルミも嫌いだったが。頭がいかれたオカドーが職場を去って、新しく職場に入ってきた『バコシヤ』も嫌いだった。


 バコシヤは、足が短く、いかり肩で、眼鏡をかけている豚の亜人オークに似たヌイグルミだった。


 ウサコは、バコシヤが別の部署にいた時、別のヌイグルミ国から来ていたヌイグルミを、横柄おうへいな態度で見下していたのを見て知っていた。

(バコシヤは、自分より下の者を見下すイヤなオークの男だ)


 そんなバコシヤが、自分の部署に配属された最初の頃。

 ウサコがバコシヤに強い殺意を抱く、発端ほったんとなる事件が発生した。


 ある日の朝──ウサコがいつものように、出社をするとデスクに座っていたバコシヤがコーヒーを飲みながらウサコに言った。

「用意されているはずの朝の書類、デスクの上に出ていませんでしたよ……どうするんですか」


 ウサコは、昨日帰る時に、確かに書類をデスクの上に置いたはずだと思いながらも……自分の思い違いもあるかと考えたが、一応バコシヤに。

「(はぁ?)今度から気をつけます」と、謝った。


 バコシヤに謝ってはみたものの、どうしても腑に落ちなかったウサコは、別の同僚に朝の書類の件について訊ねてみた。

 同僚の返答は。

「デスクの上にありましたよ、いつものようにファイルの中に整理しておきました」

 の、返答だった。

 そのコトをバコシヤに伝えた時の、バコシヤの態度は……一言だけ。


「ふ~ん」

 その塩対応に、ウサコの中でブチッと、なにかがキレた。

(こいつ、ぜってー殺す、いつもカップ麺ばかり食べやがって)


 この時からウサコの、バコシヤに対する脳内殺害がはじまった。

 ウサコは朝、大嫌いなバコシヤに。

「おはようございます」

 と、挨拶をしながら、心の中で冷たい笑みを浮かべる。

 挨拶をされたバコシヤは、ボソボソした声で挨拶を返す。

(けっ! 結局は自分より下の者だけに虚勢を張る、小心者か……危なかった、うっかりしていたら。こっちが次の下位の立場に落とされるところだった)


 ウサコはバコシヤの観察を兼ねて、脳内殺害も進行する。

 バコシヤは、下位の者以外の他者に面と向かって怒りは示さない。

 人に気づかれない場所で独り言のように。

「ボケがぁ!」

「ふざけやがって!」

「どいつも、こいつも!」

「ボゲぇ! がぁぁぁ!」

 と、怒鳴っている声をウサコは聞いた。


 そして、バコシヤの怒りの一番の特徴は怒りの声の中に。

「ぶほっ、ぶほっ」とブタの鳴き声のような怒りの声が混じるコトだった。


(こいつ、やっぱりオーク豚の亜人だ……脳の前頭前野が、活動していないんじゃないの?)

 観察してバコシヤの分析を続けるウサコは、脳内の自分のロッカーにバコシヤ殺害用の打撃具を隠す。

 そして、背を向けて椅子に座ってコーヒーを飲んでいるバコシヤの背後から、足音を忍ばせて近づいたウサコは、打撃具を頭上に振りかざしてバコシヤの頭に向って振り下ろした……何度も、何度も。


「死ね! 死ね! 死ね! バコシヤ! 死ね!」

 赤いコットンがバコシヤの頭から、飛び出して空中に散る。


 脳内で殺したバコシヤは、抵抗することもなく死んだ。

 ウサコは殺したバコシヤのヌイグルミ死体を、段ボール箱に詰めると崖の上から深い谷底へと蹴飛ばし落とした。

「バコシヤ、ざまぁ! ふぅ、スッとした」


 その後も、ウサコの脳内では醜い化け物化させた。バコシヤの殺害がルーティンで続けられた。


 鋭い刃物でバコシヤのヌイグルミを、何度も突き刺して殺す。

「死ね! 死ね! 死ね! バコシヤ!」


 バコシヤの首に、鎖やロープを巻いて絞殺する。


 バコシヤのヌイグルミに火をつけて、生きたまま燃やす。


 高い場所からの突き落とし、建物の屋上、階段、断崖、高い橋の上からも流れる激流に向ってバコシヤを何回も突き落とす。


 重機のキャタピラで踏みつけて轢死れきしさせたり。

 クレーン鉄球を上から落として、圧迫死させたり。


 銃殺、溺死、凍死、ギロチンでバコシヤのヌイグミの斬首もした。

 電気椅子に座らせたバコシヤのヌイグルミに、電流を流してバコシヤを黒焦げにもしてみた。


 中身の赤いコットンを、外に引っ張り出して殺したりもした。


(バコシヤは、ヌイグルミ、オークの化け物、脳内でならいくらバコシヤを殺害しても罪にはならない……あはははっ、バコシヤざまぁ!)


 殺害したバコシヤの死体処理は、段ボール箱や木箱や宝箱や金属、プラスチックの箱に詰めて。


 ダム湖や深い海溝に沈めたり、粉砕機にかけてみたり、宇宙にロケットで飛ばして宇宙のゴミにしたりもした。


 気圧を変化させて、バコシヤのヌイグルミを破裂させて赤いコットンを撒き散らせたり。

 反対に圧縮して、赤いコットンを吹き出させたりして殺したりもした。

「爆発しろバコシヤ! 赤いコットンを床に撒き散らせろバコシヤ!」


 有害な化学物質にバコシヤを漬けて、バコシヤのヌイグルミをボロボロにしたり。

 ハサミでバラバラに切り刻んでもみた。


 ウサコは頭の中で、考えられる限りの残酷残忍な方法で、バコシヤを殺し続けた。


  ✕ ✕ ✕


 いくら、脳内でバコシヤを殺し続けても現実世界のバコシヤは生きている。

 それでも、ウサコ的には満足だった。

 昼食でカップ麺をすすっているバコシヤの背中を、ウサコは気づかれないように、殺意を秘めた視線で眺め、薄ら笑いを浮かべる。


(毎日、殺されているとも知らずに、呑気なものだ……あははははははっ)

 最近は、バコシヤもなにかを感じているのか? 言葉少なめに変わってきて、ウサコから距離を置くようになった。

 ウサコ的には、それは好都合だった。

 別にバコシヤとは、特に会話をしなくても仕事は進められた。


  ✕ ✕ ✕


 ただ、一つだけウサコには不安なコトがあった。

(もしも、なにかの弾みで脳内で行われているバコシヤの殺害が、現実世界で行われてしまったら……頭の中の殺害と、現実の殺害の境界が不鮮明になったら?)


 一まつの不安は、あったがウサコは登録している小説投稿サイトに今日も、小説を書いて気を紛らわせた。


  ~つづく~?

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